死と変容 ― Perfume "love the world" "edge"

love the world
Perfume
作詞・作曲:中田ヤスタカ
(2008年/24分23秒/徳間ジャパンコミュニケーションズ)
かの女たちの実質的なファーストアルバムである"GAME"は自他ともにみとめる傑作ということになっているが、過大評価のきらいがなくもない
アルバム制作は工程に余裕がなく、楽曲の質や統一感がいまいちだったとおもう
"チョコレイト・ディスコ"や"Twinkle Snow Powdery Snow"のような古い収録曲のほうが、どうしてもききくらべて魅力的にかんじられる
贅肉をそぎおとしつつドライブするタイトル曲や、かわいくてせつない"puppy love"などで新境地をひらいていたのは事実だけれど、アルバムを一枚とおしてきくことはほとんどなかった
そんななか7月9日にあたらしいシングルが発売された
これがなんともすばらしい
やはりアイドルはシングルにかぎりますね!
暗いB面が明るいA面にたいするアンサーソングのようになっていて、陰と陽が宙になげられたコインの裏表のようにみえかくれしながら歌の世界をふかめてゆく
"love the world"では、アゲハチョウのようにひらひらと舞うフレーズにみちびかれてやさしい歌声がながれだす
いつものように声は加工されているが、のっちが前面にでてきこえる
こっそり秘密をあげるわ
ずっとすきにしていいのよ
きっとキミも気にいるよ
ふたりだけの特等席
だれがなんといおうと、のっちの甘くぬれた声質はPerfumeの最大の武器だ
脳のなかの普段つかわない部分が刺激され、すきな女の子とふたりきりになったような心のたかぶりをおぼえる
"GAME"にたりなかったのはこれなんだよ
転調を多用しているらしくけっして単純な構成ではないが、サビはキャッチーでたのしい曲だ
刺激的 ほらステキ
みえる世界がきらめくわ
やわらかな キミのタイミング
ずるいでしょ チュチュチュ
love love the world
日本の「世(よ)」ということばは男女の仲を意味し、さらにひろく世間一般のこと、現実世界そのものをさすこともある
高校の古典の授業でそうならったときは、腑におちなかったものだ
わがごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと世をこころみむ
(わたしが相手をおもうようにわたしをおもってくれる人がいてほしい。それでも人と人のなかはいとわしいものなのかためしてみたい)
でも、「彼氏といっしょにいるときに、いちばん世界に存在するという実感をおぼえる」というわかい女の子はけっこういるかもしれない
でもって「やわらかなタイミング」でキスをもとめられたりして
男の子らしい欲望に翻弄されつつも、恋愛のあまずっぱいよろこびが曲にあふれている
だれか書いたシナリオ?
まだ このさきがみえない
一番星さがす 手がふるえても
しかし一筋縄ではいかないystk先生、Bメロの歌詞に不安の種をまいている
神でもなんでもよいけれど、いまのふたりの関係はだれかがさだめた筋書きの一場面にすぎないかもしれなくて、まだみぬ将来の不吉な予感にかすかにふるえる
唐突な口づけも、ひょっとしたらなにかのおわりをつげているのかもしれない
B面の"edge"はもっとそっけない曲で、おもたいビートのくりかえしがつづく
むかしはやっていたケミカルブラザーズみたいな曲調だ
「だんだん すきになる きになる すきになる」のフレーズが八回反復されながらじょじょに変容し、いつのまにか英語の歌詞にかわってゆく
ここでものっちらしき巻き舌のボーカルがきこえる
冥界に一歩ずつおりてゆくような感覚
だれだっていつかは死んでしまうでしょ
だったらそのまえにわたしの
いちばんかたくてとがった部分を
ぶつけて see new world
あからさまに「死」が、かの女たちの口から二回もとびでる
公式の歌詞は"see new world"だが、実際には"死ぬよ"にきこえる
そうかんがえれば、"new world"もどこの「世界」をさすのか意味深長だ
女の子にとって恋愛はおもうようにならなくてもたいせつで、だからこそその刹那において、じぶんがいちばんじぶんらしくありたいとねがう
絶対にゆずれない矜持がそこにある
それを相手にもわかってもらいたい、でもそのすべてをわかってもらえはしないことも自覚している
恋愛のそういう不完全性もふくめてうけいれる覚悟が、「死」という表現にあらわれている
聞き手をふかいところへいざなう死の天使たちは、地獄の底につまさきをつけた瞬間に翼をひろげながらうたいあげる
そうなんだね それはそんなかんじで
you say! oh yeh! I loving you yeh!
ああそっかで 話きいてないのね
I know. oh yeh! say loving you yeh!
いろいろ解釈はあるだろうが、恋人の無関心をなかばあきらめつつもなげいているとみてよいだろう
けっきょくキミはわたしの外面しかみていないんじゃない?
もちろん顔も髪型も服もだいじだし、ほめてもらえればうれしいけれど
でもわたしたちがいっしょにいるのは、それだけが理由じゃないでしょう
すきなのは見た目だけじゃない?性格もすき?
ちがうのよ、そんなことをいってるんじゃないわ
どう説明したらわかってもらえるのかな
…三十男がこんなふうによみといてみました
青春の光と影を十分あまりの二曲に完璧にとじこめた、あまりにもうつくしいシングルだ
しかしこれらの曲の陰影はあまりにも輪郭がはっきりとしすぎて、現在進行形の女の子たちのこころに直接とどくのかどうかはおぼつかない
曲のなかでPerfumeがえんじるヒロインたちは同世代の平均をはるかにこえて感受性がするどく、人生をいきぬくために必要である以上に運命のはかなさを理解しすぎているようだ
すれっからしの聞き手にとってはそこがおもしろいわけだが
死の天使たちは、神=ystkの意図に忠実すぎるともいえる
とはいえ、いま世界でこの陰のあるラブソングをうたいこなせるのはこの三人だけだろう
そういう意味では神が天使たちにふりまわされているといえなくもない
神が天使を支配しているというのは幻想であって、天使の存在によって神ははじめて神であることができるのかもしれない
なにかと深よみをしすぎるおれもその魔力の犠牲になっているのだろうか
それはそれでよいのだけれども
のっちとボクが「ふたりだけの特等席」にいる、とかんじさせてくれてこそのアイドルなのだから
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