天才という天災

レオナルド・ダ・ヴィンチ下絵、サライ(カルロ・ペドレッティ説)『聖母マリア』(15世紀末-16世紀初頭)

 

 

Bunkamuraザ・ミュージアムの「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展は、見ものだつた。

みえない絵まで、おもしろい。

 

この凡庸な聖母像の習作をかいた「サライ」は、

レオナルドの工房ではたらく弟子で、名は小悪魔を意味する愛称。

 

 

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赤外線写真

 

 

X線や分光写真が、絵具層より優美な下絵をあぶりだす。

レオナルドによるもの。

 

これはつらい。

完成品よりも下絵の方が、藝術的価値がたかいなんて。

天才を師にもつほどの不幸はない。

 

 

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フランチェスコ・バルトロッツィ『若い男(サライ)の肖像』(1796年)

 

 

レオナルドの素描に由来する銅版画。

 

サライは、レオナルド最愛の弟子だつた。

美貌を珍重されたのだろう。

巻き毛の炎が、画家を挑撥する。

 

師の手記に、かれの盗癖がしるされている。

同僚の金品を隙あらば盗んだ。

「盗人、嘘つき、手に負えぬやつ、大食い」とまで。

それでもクビにせず、被害額等こまごま記録したレオナルドは、もつと異常だ。

人間観察の対象として、手もとに置いておきたかつたのか。

 

 

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レオナルド・ダ・ヴィンチ『ほつれ髪の女』(1506-08年ごろ)

 

 

ふせた視線が、内向的な気質をほのめかす。

顔にかかる陰影の解像度のすさまじさ。

網膜の限界にいどむRetinaディスプレイの先駆だ。

 

かたや頭髪は、風になびく様にあそぶ。

髪の癖まで大胆にとらえる。

フォトリアルな描画と、トゥーンレンダリングの融合。

 

 

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『アイルワースのモナ・リザ』(16世紀)

 

 

こんな絵が出展されてるとしらず、度肝をぬかれた。

レオナルドの未完成作と主張されている。

専門家の目にふれることすらなかつた、必見の作だ。

 

ルーヴル版よりわかい。

あちらの中年をおもわせるふくよかさも捨てがたいが、

雷光のごとき純粋さにうたれた。

美術史の教科書を紙クズにかえる。

 

風景表現は荒い。

しかしルーヴル版は加筆がいちじるしく、

本作の方が画家のおもいえがく実像にちかかろう。

 

ちなみに、1991年に発見されたサライ死亡時の財産目録に、

レオナルド真筆とおもわれる、もうひとつの『モナ・リザ』の存在がある。

 

 

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チェーザレ・マッカーリ『『モナ・リザ』を描くレオナルド・ダ・ヴィンチ』(1863年)

 

 

作品そのものが神話に。

 

ヴァザーリの『藝術家列伝』によると、リザ夫人の肖像をかくあいだ、

レオナルドは音楽家や道化師をよび、陽気な雰囲気をつくつた。

描写が陰鬱になりすぎないように。

 

猿もいる本作はたのしいが、天才の暗澹たるヴィジョンへの畏怖も感じた。

 

 

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作者不詳『『ラ・ベル・フェロニエール』とフランス国王フランソワ一世』(19世紀)

 

 

フランソワ一世は、晩年のレオナルドを支援したひと。

かれが抱くのは、「額飾りの美女」。

ながめるのも、「額飾りの美女」。

美人は三日で飽きられるが、名画は永遠に称讃される。

 

藝術が現実を凌駕する。

 

 

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作者不詳『モナ・リザ』(18-19世紀)

 

 

深窓の令嬢といつた趣きの、大理石像。

珍品をみれてうれしい。

これも若々しいが、新古典主義的解釈が、アイルワース版とまた異質。

 

キャラ立ちしすぎの女神がひとり歩きし、視覚の世界を征服する。




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