小山鹿梨子『校舎のうらには天使が埋められている』
校舎のうらには天使が埋められている
作者:小山鹿梨子
掲載誌:『別冊フレンド』(講談社)2011年9月号~
[単行本は「KC別フレ」として、第一巻まで刊行]
「赤ヶ瀬小学校四年二組」という、ミクロコスモスの物語。
転校生の「後堂理花」。
ひつこみ思案で、溶けこめそうにない。
でも二組には天使がいた。
「蜂屋あい」。
なんでもできて、いつも笑顔の、かんぺき美少女。
陰に日向に、理花の世話をやく。
本作の主題はイジメ。
弱虫は、ジツリョクシャの餌食に。
身を挺してかばう、あい。
こんなすてきな女の子が、あたしのことわかつてくれて、
しんらいして、なかよしになつてくれるなんて!
同級生にはたらきかけ、転校のプレゼントまで。
中身は犬の首輪。
すべて演技だつた。
飼い犬への入念なしつけだつた。
どん底に叩き落し、服従させるための。
無邪気な笑顔。
心からたのしんでいる。
そして冒頭の歓迎の言葉につながる。
リードにつなぎ、ドッグフードで餌づけ。
あいは『不思議の国のアリス』の原書をよむ。
独裁者は、おのれの手をよごさない。
すでに飽きた様な風情が、なおのこと恐ろしい。
金魚の死に泣き濡れる、二組のよいこたち。
担任の木戸先生は完璧にだまされている。
たしかに見ためは、天使だが。
優等生は休み時間も、理科の観察。
イモムシがアリの群れに食いつかれる。
おびえる「浜上優」。
安全ピンで、やさしくトドメをさす。
ちよつとづつ体をかじられるより、楽にしてあげた方が。
あいの意見はただしい。
でも面くらう。
金魚の「スイちやん」にむけた涙はなんだつたの?
この会話は、優に対する警告でもある。
すべての言動が芝居がかり、イジメを藝術に昇華させる。
だれもが加虐をこのみはしない。
むしろすくなかろう。
優はイジメに消極的で、こつそり理花をたすける。
クラスの王子さま、「波多部隼人」と恋仲に。
あたしには守つてくれる人がいる。
あいちやんだつて、こわくない!
総がかりで、乙女心を蹂躙。
優と隼人に、教室でセックスさせる。
可憐な微笑をたたえ、「愛をたしかめあうつて、すてきぢやない?」。
政治に分派行動はつきもの。
そのときは裏切り者同士を、仲違いさせるべし。
つねに多数派を形成すべし。
「王子さまが「わんこ」になるのつて、見たいかも……」
引き裂かれる純情。
イジメのなくならない理由が、ここに描かれている。
「イジメられるより、イジメる方がマシ」
この絶対的真理は、授業でおそわらない。
自然にまなぶものだから。
「わんこ」の境遇を脱し、急にイキイキしだす理花。
かつて自分をたすけた優を痛めつける。
はじめ『校舎のうらには天使が埋められている』は、
転校生がイジメとたたかう物語とおもつたが、ちがう。
ただしくは、兇悪なヒロインに支配された小宇宙の神話だ。
作者・小山鹿梨子は、あとがきによると登校拒否経験があるらしい。
この残酷な天使のテーゼは、
であつたことを呪いたくなるほどの傑作になるかもしれない。
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