烏丸渡『NOT LIVES』
NOT LIVES -ノットライヴス-
作者:烏丸渡
掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(アスキー・メディアワークス)2011年8月号~
[単行本は「電撃コミックス」として、第一巻まで刊行]
高校生の三神シゲルは、ひよんなことから入手した、
一枚のゲームディスクの内部にとりこまれる。
寝ぼけ眼の美少女となつて。
二十年以上、中二病とつきあつてきたから言わせてもらうが、
物語に既視感がありすぎ、まるで故郷にかえつた様な心地がした。
この「アバター」をあやつり戦う。
娘がボソボソつぶやく。
アバターにも意思がある。
人工知能でなく、人間らしい。
2009年のアメリカ映画『GAMER』と似た趣向か。
作者・烏丸渡は、あの映画を見たのかも。
でもゲーム好きの漫画家なら、だれもが思いつき、数秒後に捨てそうな話だ。
本作『NOT LIVES』の非凡さは、主人公の適応力にある。
前ぶれなく飲まれた異世界の構造を、いささかも動じず分析。
敵の行動パターンをよみ、防御スキルを着地にもちい、形勢をくつがえす。
チュートリアル終了。
律動的なコマ割りが、鮮烈に異次元をきりとる。
三神君がすぐ馴化したのは、天才ゲーム制作者だから。
大流行のソーシャルゲームも、彼が趣味でつくつた。
「ねーよ」とツッコミつつ、オレは思いを馳せる。
中学生のころ想像すらできなかつたスーパーマシンが、街中にころがる。
目をうたがうほど美麗グラフィックのiPhoneアプリが、85円だつたり。
ヘタすれば無料。
ゲームの津波が、全世界に中二病を伝播する。
近所にすむ同級生の「いつき」。
オクテな三神のため、恋愛ゲームの参考資料を、身を張つてあたえようとする。
総じて、妹キャラが好きで、幼なじみキャラが嫌いなオレも、いつきちやんはお気にいり。
ただ健気でカワイイのに、主人公の眼中にはいらない。
それは『NEWラブプラス』があれば、異性にかかわるのは億劫きわまる。
愛花、寧々、凛子。
三人のカノジョだけでも持て余してるのに、いまさら生身の女なんて!
二戦目の相手は「ショーコ」。
これもアバターだ。
チアガールは定番の萌えコスだが……
……振りまわすは、棘のはえたポンポン。
ゲームの「萌え」は、捕食者による擬態を意味する。
黒チアガ。
ショーコは「初心者狩り」だつた。
暗転する百面相が、読者の背筋をひやす。
テンションは天井しらず。
作者はおそらく中川翔子を意識している。
打算のもと表情筋をうごかし、フェイントをまじえ攻撃。
反撃されると泣く。
感情、それは最強の武器。
ショーコの背後にもプレイヤーが。
たからかな哄笑は、ショーコのものか、狙井のものか。
わからないし、かんがえるヒマもない。
分析し、適応しなくてはならない。
1フレームでもはやく。
適者生存。
空間が裂ける。
裏のページがみえる。
スキャンするとき破いたのではない。
ここに描かれたのは、ゲームという虚空。
遙けくも来つるものかな。
『ゲームセンターあらし』から四半世紀。
ついにゲームを、ゲームとして実体化する、作家があらわれた。
烏丸渡、この名をおぼえておきたい。
……さて、『善人シボウデス』の続きにとりかかるか。
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