ボブ・ウッドワード『オバマの戦争』

 

オバマの戦争

Obama’s Wars

 

著者:ボブ・ウッドワード

訳者:伏見威蕃

発行:日本経済新聞社 2011年

原書発行:2010年

 

 

 

バラク・オバマに従軍経験はない。

軍事への関心も乏しい。

だからつて、司令官の資質がないとは言えない。

彼は側近からさえ、「感情があるのか?」と疑われている。

逆に周囲の感情を、冷厳に利用する。

そうして政界を這いあがつた、非情な男だ。

本書は、ブッシュから受けついだ戦争に、

オバマがどの様に臨んだか、余すところなく記録する。

 

 

 

 

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デイヴィッド・ペトレイアス陸軍大将(現CIA長官)。

イラク戦争の英雄で、アイゼンハワー以来もつとも尊敬される将軍。

 

ペトレアスは、戦争という概念の定義を一変させた。

反政府活動鎮圧教本を策定して、イラクでそれを実施した。

アメリカは敵を殺しても戦争を終わらせることはできない、

というのが、ペトレアスの第一の卓見だった。

住民を護り、人心を収攬し、ともに生活し、

安定した有能な政府が栄えるように、治安を維持しなければならない。

ペトレアスが模範とする新種の兵士は、ソーシャルワーカー、

都市計画家、人類学者、心理学者になる必要がある。

 

以上の立場から、中央軍司令官として、オバマに対し強硬に、

アフガニスタンへの「四万人増派」を要求した。

大統領選出馬を取り沙汰されるなど、宣伝をこのむ野心家でもある。

有能だが、御しがたい宿将だ。

 

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マイケル・マレン海軍大将。

統合参謀本部議長をつとめる。

制服組の最高位ではあるが、作戦指揮権はなく、

連絡・監督・顧問の役割のみ有する。

目立ちたがりのペトレアスとの間に、憎悪に近いわだかまりがあるのに、

国防長官および大統領に、的確な助言ができなかつた。

いかにも提督カタギで、主力艦の艦橋でふんぞりかえり、

「もつとコーヒーを持つてこい!」と怒鳴るしか能がないらしい。

そもそもコリン・パウエル以来二十年間、

米軍が誇る参謀たちは、脇役に追いやられてきた。

事実上オバマの手には、「四万人増派」しか選択肢がなかつた。

 

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左がアフガニスタン大統領のハーミド・カルザイ。

情報によれば、躁鬱病と診断されている。

薬物治療の影響で、気分はコロコロ変る。

なにかあるたび国務省に電話をかけ、

「国務長官か大統領を出せ」といつては、たらい回しされる。

腐敗したアフガン政府の取り巻き以外、彼を信用する者はいない。

しかし、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯には、

政府の統治が行き届かない、部族支配地域がある。

ここにウサーマ・ビン・ラーディンもいる。

逃げるわけにゆかない。

 

 

 

 

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オバマの懐刀、ラーム・エマニュエル大統領首席補佐官(現シカゴ市長)。

『ゴッドファーザー』ファンなのか、気に入らない人間に死んだ魚を送つたことがある。

その攻撃的な気性は恐れられている。

政治には通暁するが、民主党らしく軍隊嫌いで、

軍幹部とホワイトハウスのあいだの断絶を、一層ふかめた。

……アメリカ政府は、戦争で手をひろげる余裕などない。

年間五百億ドルも費やして、ビン・ラーディンを見失うとはどういうことだ!?

このギョロ目で責められたら、将軍閣下もシュンとなり、恨みに思うだろう。

 

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ヒラリー・クリントン国務長官。

ある会議でこう切り出した。

「大統領、あなたが直面しているジレンマは……」。

「we」でなく、他人事の様に「you」という主語をつかう口ぶりが、

大統領の腰巾着たちの癇に障つた。

はげしかつた民主党の予備選挙での敵意が、ホワイトハウスにただよう。

当然バラク・オバマも、和をおもんじる。

だが会議は、突つこんだ議論はおこなわれず、

しらじらしく台本を読む感じですすむ。

「亡霊だ」と、オバマが無表情につぶやく。

真摯に教訓をまもつているはずのに、

やることなすことベトナム戦争の二の舞に。

 

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ロバート・ゲイツ国防長官(現在は退任)。

無口だが世渡り上手で、八人の大統領に仕えた。

ペンタゴンの官僚主義の破壊を目論むが、

それが必要とおもえば、擁護する側に回りそうな現実主義者。

オバマの戦争では、この灰色の男が鍵をにぎる。

軍幹部の忠誠をたもちつつ、大統領の展望にそつて動く。

大量辞任や命令拒否をちらつかす部下をなだめすかし、

アメリカの安全保障に亀裂が走るのを阻止した。

 

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いざというとき、頼りになるのは海兵隊。

ジェイムズ・コンウェイ海兵隊司令官は、

大統領に「長期の国家建設に署名するな」と進言した。

海兵隊員にソーシャルワーカーになれだなんて、ひどい偽善だ。

われわれは、ただの殺し屋だ。

ヤるべきことをヤり、さつさと家に帰る。

それしかない。

写真のジエイムズ・E・カートライト統合参謀本部副議長は、

マレン議長に握りつぶされるも、半分の「二万人増派」案を作成した。

 

 

 

 

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機会費用をかんがえろと、オバマはいう。

蓮舫の言葉をもじるなら、「戦争つて、勝たないとダメなんですか?」。

前任者と比して、革命的転回だ。

増派は「三万人」に抑制された。

 

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若者を戦地に送りこむ一方、スケジュールの前倒しをもとめる。

全面的な反政府活動鎮圧など、夢物語だ。

また、後任の大統領が引きつぐ駐留兵力は、絶対減らす。

この戦略は勿論、再選出馬の日程を意識している。

政治家は戦争に勝てなくても、選挙には勝たないとダメだから。

 

“戦争は地獄”という、有名なアメリカ人の言葉がある。

そして、戦争の犬たちがひとたび放たれると、どこへ連れていかれるかわからない。

 

大統領らしからぬ強い表現に、著者ウッドワードも度肝をぬかれた。

どこまでオバマの手柄かはともかく、彼はどうにか戦争の犬を飼いならし、

ことし五月、憎きビン・ラーディンの首をとつた。

 

 

 

 

『オブジェクティブ』(アメリカ映画 2008年)

 

米軍がベトナムから撤退したとき、オバマは十三歳。

「ベトナムなんて知るか」という世代だ。

こうして歴史は書きかえられてゆくのかと、感慨ぶかい。





オバマの戦争オバマの戦争
(2011/06/18)
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