豊由美 対 アマゾンレヴュアー

『ロイター』(撮影:シャノン・ステイプルトン)

 

豊由美『ニッポンの書評』(光文社新書)をよんだ。

空疎な本だつた。

要するに、書評家はえらいと。

ブックレヴュアーをもつて任ずるトヨザキの、

おのれの職業についての矜持がみなぎつているが、

もともと彼女の仕事に無関心な者にしたら、どうでもよい。

ではなぜ今回ここで取りあげるかというと、

ブログ運営者の端くれとして、聞き捨てならない記述があつたから。

 

粗筋や登場人物の名前を平気で間違える。

自分が理解できていないだけなのに、「難しい」とか「つまらない」と断じる。

文章自体がめちゃくちゃ。論理性のかけらもない。

(略)

そういう劣悪な書評ブロガーの文章が、ネット上には多々存在する。

それが、わたしのざっと読んでみての感想です。

 

ブログやアマゾンレヴューが、全否定にちかい形で罵倒される。

本屋に悪書が並ぶからといつて、すべての本を切り捨てる様なもの。

トヨザキは世界がみえてない。

三文小説ばかり読んでると、こうなるのかな。

 

 

 

 

http://blog-imgs-34.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/7803-cut.jpg

 

アマゾンレヴューより興がある読みものを、ボクはほかにしらない。

書き手もさまざま。

 

小谷野敦は、比較文学者・評論家・小説家で単著もおほく、

『母子寮前』は昨年の芥川賞候補になつたし、トヨザキ以上の大物か。

かれはアマゾンに581件のレヴューを投稿している。

 

大江健三郎『キルプの軍団』の書評

 

「大江健三郎の一人勝ち」

 

あまりに素晴らしいので驚いている。大江の次男をモデルとし、語り手として、

高校生の少年が、小説家である父、障害のある兄などとともにあって(娘はここではいない)、

警官である叔父さん(これも実在)を交えて、ディケンズの『骨董屋』を英語で読んでいる。

キルプは、その登場人物である。

 

(略)

 

西洋の文学作品、しかもあまりメジャーでないものを核にして小説を書くというのも

大江が時どき使う手だが、明らかに純文学で、しかし面白く、また1980年代以降盛んになった、

通俗小説仕立ての純文学とも違ってまったく独自の世界になっている。

実に1970年代以降の日本文学というのは、大江ひとりがあまりに圧倒的だという奇観を呈している。

大江のマイナー作品ひとつに、全作品をもって立ち向かっても及ばない

純文学作家(世間的には大物)が何人もいるのだから。

 

たまたま手にした大江健三郎に感動し、その勢いで書いたのだろう。

さらりと戦後の日本文学を総括するなど、評論家ならではの冴えもみせる。

ちなみにアマゾンでは、レヴューに対しコメントをつけられるが、

大江に遠く及ばぬ純文学作家とはだれか質問されている。

「島田雅彦にとどめをさしますね」と、小谷野自身が返答。

このやりとりに吹き出さなかつたら、あなたは書評など読まない方がよい。

 

山形浩生は、評論家・翻訳家。

経済・環境問題・英文学などにつよい。

投稿数は251件、ここでは書評集の書評をとりあげよう。

扱きおろされた著者は、読売新聞の書評委員だ。

 

橋本五郎『「二回半」読む 書評の仕事1995-2011』の書評

 

「パターン化して弛緩した感想文集。」

 

ぼくも某新聞で書評委員をやっているけれど、絶対に避けたいと思っているのがこの手の書評。

書評じゃなくて、ただの感想文なんだもの。

自分では感想文ではないつもりでいるらしいんだが、これが感想文でなくて何?

 

基本的には、なんか私的な前振りをおいて、あらすじ紹介して、きいたふうな一節引用して

「重要である」「考えさせられる」とか書いておしまい。すべてがワンパターン。

読んでいて、工夫やひねりのある書評がちっともなくて、後から読み返す価値があるとは思えないし、

こうして本にまとめる意義もなかったと思うんだが、あの藤原書店がどうしちゃったの、という感じ。

 

まともな分析や切り込みのある書評は全然ない。そうした能力に欠けるからだと思う。

たとえば著者は「『けなす書評』もなりたつだろう。しかし、私はその道はとらない。

読者が買って損はしなかったと思ってほしいからである」(p.2) と言うんだが、

だったらなぜある本を買うべきでないか(出すべきでないか)を説明する

「けなす書評」だっていいはずでしょうに。

著者の書くものには、このように明確な論理性があまりない。

(略)

 

書評に対する書評は、批判のすべてが自分に跳ねかえるが、

キビキビと明快な文体は確信にみちて、心地よい。

ボクは性格がわるいので、「けなす書評」が大好きです!

 

 

 

 

 

著名人ばかり紹介し、権威を笠に着るとおもわれると嫌だから、

シロウトのレヴューも引用したい。

 

革命人士は、新書専門のレヴュアー。

実は『ニッポンの書評』を読む気になつたのは、この人の影響だ。

 

豊由美『ニッポンの書評』の書評

 

「制約が多い、だから書評は面白い」

 

結末を書けない、字数は800字、と書評メディアは制約が多い。

その制約の中で正確に読み込み、自分の思考も示した上で、

魅力ある文体で「どうですか、これ」と読者に訴求する。難易度は高い。

本書は「書評かくあるべし」というより、著者自身が答えを探し求めている。

 

ネタバレ書評を全文引用してバッサリ斬るかと思えば、返す刀で、

「走れ、書店に!」という常套句でシメる自分の書評もバッサリ。

その一方で、高品質な書評も多く引用している。

「100回生まれ変わっても書けないだろう」という小野正嗣の書評を読むと、

これはこれで「作品」と呼びうる文章の美しさだ。

制約が多い。書き手の力量がはっきり見える。だから書評は面白い。

 

(略)

 

どんな場所であれ、素人もプロも、本のことを書くなら、

書き手への敬意を捨てるべきではない。

感想を語るなら読み込め、という著者の主張はもっとも。

「自分の考えを他者に伝えるための入れ物として対象書籍を利用するな」

という著者の怒りも分かる。

民主党大臣の本だから、悪名高い評論家の本だからと、

内容に少しも触れないでディスるだけのレビューが乱発し、

それが絶賛されてしまう、どこかのサイトを見ているとなおさらだ。

 

アマゾンレヴューをくさす自虐的なオチがつく。

実際の本より、この文章の方がデキがよかつたな。

まあ、それも書評の楽しみのうち。

 

古本屋Aは、哲学書や歴史書についてよく書く人。

司馬遼太郎の、すこしマジメな随筆集をピックアップ。

 

司馬遼太郎『十六の話』の書評

 

「司馬遼太郎の幅の広さに驚嘆」

 

物知り博士とはこの人のこと。尽きない知識の開陳は驚くばかり。

何よりも分かりやすい文章、仔細やややこしいことに拘泥しないで、

目にとまった興味深いことを「ほら」と言って指差してくれる。

読者はそっちの方を見るとなにがしかの蘊蓄を開陳してくれる。

ややこしい話はしないのは、逆に言えば、思想的な話がないから誰にでも受け入れられる。

(略)

そういえば、思想系の話も駄目だと思うが、小説や文学の話も駄目だと思う。

子規や漱石の話は良く書くし、知識もあるのだろうけれど、

作品に対する理解は怪しいと思えるから、だから、その手の文章は読んでも面白くない。

逆に鉄の話や、道具や、土地の話など、実生活に接する話ほど面白い。

本書は著者のいろんな面が出ていて、分かりやすく楽しい一冊だった。

 

ボクは司馬遼の愛読者なので、何度も頷かされた。

神殿に祀りあげるのではなく、あえて缺点を指摘することで、

稀代の作家の持ち味が焙りだされる。

そんな清々しいレヴューをみつけたら、「参考になつた」ボタンをおそう!

 

 

 

さて、トヨザキの本にもどります。

 

これまでにやってきたように、ネット上からいろんなタイプの評を拾い、

引用しながらブログ書評について考えてみたいと思っていたのですが、

それは編集部からストップがかかりました。

素人の原稿を勝手に引用するのは問題があるのだそうです。

ほら、守られてるじゃん。

ブログで書評を書いている皆さん、あなたがたは守られてるんです。

安全地帯にいるんですよ。

そして、安全地帯に身をおきながらでは

批評の弾が飛び交う戦争に参加することはできないのですよ。

 

なにいつてんだか。

出版業界の慣例に、ヌクヌク安住してるのは自分ジャン。

ためしに彼女のブログにトラックバックを飛ばしてみた。

撃ち返せるものなら、やつてみな!


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