竹内桜『赤龍の乙女』
作者:竹内桜
発行:集英社 2009~2011年
[JC.COM]
漆黒の制服をまとい、真剣をたづさえる。
支配者養成学校「御堂学園」の生徒たち。
放課後のつどいに遅れて参じたるは、
アホ毛以外は世間並の女子高生、坂田萌(さかた・めぐむ)。
遭遇戦がはじまる。
JKの神器、ケータイをめぐり。
御堂学園、フリルつきの白いニーソックスが目印の碓井貞光が、
萌のみぞおちに柄をねじこむ。
変哲ないファミレスが、一瞬で戦場に。
でも女なのに、名前が「貞光」つておかしくない?
それには理由があるので、単行本でたしかめてほしい。
この一戦は、どうにか防衛に成功。
見た目はさえないが、怪力の持ち主だ。
今度は自宅を急襲される。
百合という暴力。
なぞのゴスロリ少女・英莉華につれられ、明治神宮前駅をでる。
服の嗜好を染められて。
『ぼくのマリー』『ちょこッとSister』などのヒット作でしられる竹内桜は、
実に四半世紀の藝歴をほこる漫画家だが、
だからこそ当節の流行など、いともたやすく取りいれてしまう。
たつた三人で原宿を占領。
「ぷっは ツンデレ!? やっべ モノホン初めて見た」なんて、英莉華のセリフが小憎らしい。
…ってゆーか あたしと一緒に来る気 無い!?
このクソったれの為の クソったれた世界 壊す為にさ!?
あんた このまま一生懸命 生きた所で
間違いなく 一生 底辺だよ!?
あんたには もう 浮かぶ瀬は無い――
時代の空気を呼吸したつぎのページで、時代を完全否定する。
この毒々しさこそ、竹内桜だ。
そこに前ぶれなく貞光が突入!
斬新かつ精緻な作画は、一平方ミリメートルの隙もない。
国家をゆるがす陰謀の渦中に飲まれた萌たち。
作者にまつわる「ヌルいラブコメ作家」という評価は、
世をしのぶ假の姿と、十分お分りいただけたろう。
鉞(まさかり)かついで金太郎~♪
冗談ではなく、われらが坂田萌は、「坂田金時」の転生者だつた。
その馬鹿力は、故あつてのこと。
緻密な作画、壮絶かつ当世風なアクション、そして古代史マニアの精神。
息もつかせぬ密度の濃さ。
漫画にこれ以上、なにをのぞむのか。
だが悲しむべきことに、掲載誌が廃刊となり、本作は第二巻をもつて終了。
一巻でおわつた傑作、『特命高校生』と同様の運命をたどる。
大衆はとかく俗を好むし、まして漫画に藝術的達成などもとめない。
作家が本性をあらわしたら、商売にならない。
終幕。
魔都東京をみおろす、巨大な天狗。
作者の形代でもある。
身過ぎ世過ぎで俗世をいき、機をみて不意にあらわれ、
時空をねじまげ、街をかきみだし、忽然と消え失せる。
十年ごとに。
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