予告編につづいてCMの上映がはじまります ― 「大いなる陰謀」をみて

プロパガンダ

大いなる陰謀
Lions for Lambs
出演:ロバート・レッドフォード メリル・ストリープ トム・クルーズ
監督:ロバート・レッドフォード
(2007年/アメリカ/92分)
[京成ローザ10にて鑑賞]

なんだかへんな映画だな…なんだこの違和感は…
シネコンをでて千葉駅へむかうおれの頭のなかで疑問符がうずまく
いいたいことが見あたらない映画なら掃いてすてるほどあるが、いいたいことがたくさんありそうなのにそれがなにかわからない映画というのはめずらしい
しかしおれは帰りの電車のなかで謎をときあかしたよ

脚本はマシュー・マイケル・カーナハン
サウジアラビアのテロリストという無駄におもい題材をあつかった「キングダム/見えざる敵」も担当している
しかしまあインテリぶった脚本だこと!
上院議員のトム・クルーズとベテランのジャーナリストのメリル・ストリープが、たがいに職務上のかけひきをしながら、20世紀以降のアメリカ外交・軍事史にかんする議論をくりひろげるのが見どころ
「十二人の怒れる男」みたいなディベート映画といえるが、こちらはもっとエリート臭が鼻につく
本作のトム・クルーズの役どころは、ハーバード大卒で陸軍士官学校も首席で卒業し、陸軍で活躍したあと政界に転じて上院議員となった共和党のわかき旗手ということらしい
ぷっと吹きだしそうになるほど嘘くさい役
冷戦後の世界情勢、アメリカ外交における介入主義と孤立主義の相克、アメリカ議会と大統領府の関係…などなどの知識は観客がとうぜん知っているものと前提して、トムとメリルが口角あわをとばしながら論争をつづける
日本で上映する意味はあるのか?という疑念をぐっとのみこみつつ字幕をおいかけよう
そのうえ三本の話の筋が同時進行するという複雑さ!
プロット1→上院議員vsジャーナリストの議論
プロット2→大学教授(レッドフォード)vs無気力学生の議論
プロット3→志願してアフガンに参戦した兵士のたたかいと、回想シーンでの議論

なんだか議論ばっかりだなあ
プロット3の兵士はレッドフォードの教え子でもあり、かれらをアフガンに派遣させたのがトムが立案した作戦で…って、お~い、みなさんついてこれてますか?
ぼくだってがんばってわかりやすいようにあらすじをまとめてるんです
文句は脚本家にいってくださいね
普通ならいねむり必至の台本と、必要以上に豪華なキャスティングの途方もないミスマッチ感覚
メイド喫茶にいったら叶姉妹がでてきてびっくり、みたいなノリです

でも映画じたいはよくできている
さすがはこの道46年のレッドフォード、かわった食材でもたくみにさばいてみせる
室内劇が中心だが、小道具をたくみに配してアクセントをつける
冒頭、大学の寮(?)のテレビの上にはWiiとXbox360がおかれている
これがソニーピクチャーズだったら、販売シェアを無視してPS3をうつさせてリアリティを犠牲にする
PS3はアメリカでもぜんぜんうれていないのに、映画では登場頻度が異様にたかい
書類とか、コーヒーとか、トムが議論であつくなってスーツの上着をぬぐところとかをうつしながら、作品のリズムを組みたてている
ただ上院議員トムのスーツは三つぞろえで微妙にださかった
「コラテラル」では香港で仕立てた(という設定の)グレーのスーツでかっこよかったなあ
そして役者たちの演技も白熱している
おれは「レインマン」以降、トムさんの映画をリアルタイムでみていて、かれの姿をみるとじぶんの兄かなにかのような気分がして客観的になれないが、好演だといえるだろう
カメラのとなりにレッドフォードがたっていれば、だれだって「ちょ、サンダンス・キッドがみてるよ…やべーなにいわれるんだろ」と身がひきしまるにちがいない
ただベテラン三人がみんなレッドフォードにみえるのがちょっとおかしい
自信満々で上手なんだけど、どこか余裕がなくて愛嬌がたりない
若手ではマイケル・ペーニャがきわだっていた
ちょっと舌たらずな発声をする、母性本能をくすぐるかんじのおもしろい役者だ
まあぼくは男なので母性はありませんが…

この作品のレビューをみていると、「民主党支持のレッドフォードがブッシュ政権を批判して云々」「大統領選挙シーズンにあわせたプロパガンダが云々」みたいな大真面目な意見がおおい
ちっちっ…わかってないねみなさん
ロバート・レッドフォードですよ?
「追憶」じゃバーブラ・ストライサンドと寝たあとで、かの女に「これは夢じゃないか」といわせたほどの男ですよ?
サンダンス・キッドがわざわざ民主党なんかを応援するために映画をつくるわけないでしょ
レッドフォード氏は社会正義にすら本気で関心があるかどうか微妙です
アフガンでの戦闘シーンが奇妙なくらい手ぬきだったことからもわかります
かれは前線で苦労する兵隊さんたちのことなど眼中にありません
レッドフォードが関心をよせるのはレッドフォード自身です
トップスターのトムに超エリートを演じさせておきつつ、それに女優のなかの女優、ロバート・デ・ニーロすらおそれるというメリルを真正面からぶつけてさんざんにいたぶりながら、自分はそれを高みからにやにやと見物する
最後も案の定おいしいところだけをもっていきました
やっぱりいまでも一番いけてるのはおれだよな!
なあ、きみたちもそうおもうだろ?
レッドフォードがレッドフォードを宣伝するプロパガンダ、それが「大いなる陰謀」です
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