硬質の軟体動物 ― Portishead "Third"

馬

Portishead
Third
(2008年/イギリス)

それは人生に絶望したもののためのシソーラス

Tormented inside lie
Wounded and afraid
[Silence]

Through the glory of life
I will scatter on the floor
Disappointed and sore
And in my thoughts I have bled
For the riddles I've been fed
[The Rip]

The taste of life I can't describe
It's choking on my mind

I bleed, no place is safe
Can't you see the taste of life
[We Carry On]

I'm worn, tired of my mind
I'm worn out, thinking of why
I'm always so unsure
[Threads]


ながながと引用してしまいもうしわけないが、ようするに苦痛、恐怖、失望、疲労、不安とか
傷口とか出血とか窒息とか
もうちょっとあかるい歌をつくれないものかともおもうが
自他ともにみとめる根暗人間で、こんなハンドルネームをなのるおれですらついていけない
この沈鬱な歌詞を、余命数日といった気配のベスがよわよわしくつぶやきます
梶芽衣子と綾波レイをたして0をかけたような、絶対零度の怨み節
"Through the glory of life"というフレーズは、14年前の"Glory Box"のヒットによる重圧をにおわせているのかなとおもったりした

ポーティスヘッドの11年ぶりの新アルバムは、はやい拍子の"Silence"ではじまる
ながい沈黙をやぶったはなからこの曲名…
このアルバムは意外とぐいぐいと加速するリズムの曲がおおい
"Nylon Smile","The Rip","We Carry On"あたりがそうだ
しかしどれだけリズムの反復に耳をかたむけても、気分はむなしいまま
ハムスターの回し車のようなものだ
一音一音が選びぬかれていることが痛いほどつたわり、聞くものにつねに緊張をしいる
リードシングルの"Machine Gun"がすばらしい
自分たちの音楽からどれだけ音数や音色をけずれるかという実験のようにきこえる
鉄くずをうちつけるようなはげしいドラム音が変化するうちに、おもくるしさから解放されはじめる
永遠につづくとおもわれた拷問のはてにおとずれる至福

ポーティスヘッドのジャケットはどれもいいものだが、深緑に"P"と"3"とだけ描いた今作のデザインはベストではないだろうか
どれだけ虚飾をはぎとってシンプルになれるかがテーマだったのだろうか
それは煮つまったアーティストにありがちな目論見で、たいてい失敗する
ブリストルの三人組がえらんだモチーフは60年代のサイケデリックロックのようだ
エレクトリックピアノがうなる"Small","Magic Doors"によくあらわれている
タイトル名からの安直な連想かもしれないが、ドアーズをおもいおこさせる曲調だ
去年だったらスーパーファーリーアニマルズやコーラルのアルバムがけっこうよかったが、いまのイギリスで自然になりひびいている音なのだろう
しかし本作のギターやフェンダーローズは、それらの「ロックバンド」よりはげしく咆哮している
かぼそい歌声とゆるいビートに耳をかたむけるうちに、硬質の核につきあたる
11年のあいだ惰眠をむさぼっていたのではない証拠に、かれらは攻撃性をむきだしにした
それは欲求不満をかかえた男の性器のように、夜ふけに硬直し、欲望の対象をつらぬく
下品なたとえで恐縮だが、どこかにエロスを感じられなきゃこんな音楽はやりきれない

最後の曲は"Threads"で、これがベストトラックだろう
チェロのひびきと、ぽつぽつとつまびくギターにみちびかれる、いかにもポーティスヘッドらしい曲
"Plastic"も典型的な曲調だが、こちらはより暴力的な編集がなされていた
ベスがギターの演奏でクレジットされているのがめずらしい

これがあんたたちがのぞんでいるポーティスヘッドなんでしょう?
やろうとおもえばこれくらいはいくらでもできるのよ
でもわたしたちはもうつかれた
やってられないわ


聞き手とのあいだにむすばれた複数の糸をたちきってしまうようなかなしい曲

こんな陰鬱な音楽をききながら新宿をうろつくおれはどうかしてる
このしらべを理解できない人はおおいだろうし、そのほうがしあわせにおもえる
そのにぶい感性をあわれにもおもうけれど

ThirdThird
(2008/04/28)
Portishead

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苑田 謙

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