アンヌ・ヴィアゼムスキー『少女』

 

少女

Jeune fille

 

著者:アンヌ・ヴィアゼムスキー

発行:白水社 2010年

原書発行:フランス 2007年

 

 

 

六十年代に活躍した女優で、その後人気作家となつたアンヌ・ヴィアゼムスキーが、

初出演作にして、代表作のひとつとされる、

『バルタザールどこへ行く』(1966年)撮影現場の裏話をあかす私小説。

これがファンの度肝をぬく内容だ。

 

 

 

監督は六十三歳の名匠ロベール・ブレッソン。

シロウトの役者をこのんで起用する、写実的な演出が評価されるが、

なんのとことはない、それは性的嗜好の表れにすぎなかつた。

要するに処女が大好きで、藝術という大義名分のもと、

美少女たちをあやつり人形にして弄んでいた。

 

 

当時十七歳だつたアンヌ・ヴィアゼムスキーが、

不良少年ジェラール(フランソワ・ラファルジュ)の車にのりこむ。

 

 

視線の先には、柔肌とスリップが。

 

 

のびる手を、男の意志はとめられない。

 

 

みづみづしい頬をぬらす涙をぬぐう。

息のつまる名場面だが、「予行演習」のおかげでもある。

ブレッソンは撮影中、スタッフと離れアンヌとともに、ちいさな民家にとまつた。

毎晩その体をまさぐり、いやがる少女に口づけをする。

裏方の職人たちは、アンヌを「囚われの少女」と名づけ、

巨匠の公私混同ぶりを批判していた。

特に、撮影監督ギラン・クロケの気づかいにはホッとする。

 

 

 

密室でおきた出来事なので、本書の記述は真実なのかわからない。

だが、しぶといブレッソンが九十八歳で死ぬまで、

心にしまつていた秘密が、すべてウソとはおもえない。

服をぬがされる場面があることを、シナリオにも書かず、

撮影当日までかくしてアンヌを動揺させたり。

ラファルジュと共謀して、本気で平手打ちをくらわし、

事故とみせかけ、反抗をはじめたアンヌに制裁をくわえたり。

あまりの俗物ぶりにあきれた。

 

 

しかしアンヌは、監督を恨んでいない。

この亡命ロシア貴族の娘はひどく聡くて、

陰湿なイジメも恋愛遊戯のひとつだと理解していた。

「目の輝きがたりない」と、驢馬にまで執拗にダメ出しをするブレッソン。

藝術にとりつかれた滑稽な老人を、少女なりに愛していた。

 

 

 

 

 

この私小説には、ジャン=リュック・ゴダールも出演する。

『気狂いピエロ』を撮つたばかりの気鋭の監督は、ブレッソンを崇拝しており、

難航中の現場で、『カイエ・デュ・シネマ』誌のインタビューをおこなつた。

昼食の席でゴダールは、どもりながら追従口をならべたてるが、

老匠を踏み台にしようとする功名心を見抜かれ、まともに相手をされない。

俗物にも上がいる、というわけだ。

ゴダールは、のちにアンヌを妻にむかえることになるが、

ブレッソンへの嫉妬が影響している様におもえる。

いづれ映画史は、一から書き直されるだろう。

うすぎたない欲望に翻弄される、有象無象の物語として。

そのなかで生きぬいた、女たちの神話として。

いくつかの偶像が破壊されるのは悲しいが、

アンヌの愛らしい後ろ髪がつけ毛だつたなんて、新鮮なおどろきもある。

 

 

 

以下はアンヌが出演した、ゴダール監督作『ウイークエンド』についての記事です。

ヴィアゼムスキー革命 ―― 『ウイークエンド』



少女少女
(2010/10/19)
アンヌ ヴィアゼムスキー

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苑田 謙

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