モタニ党宣言 ―― 藻谷浩介『デフレの正体』

 

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く

 

著者:藻谷浩介

発行:角川書店 平成二十二年

[角川oneテーマ21]

 

 

 

日本には幻影が出没している。

それはモタニ主義の幻影だ。

 

 

 

日本政策投資銀行につとめる藻谷浩介は、

「好況と不況」や「インフレとデフレ」といつた物差しでは、

いまの日本の経済をはかれないと主張する。

それどころか、GDP、失業率、地域間格差、生産性向上、技術革新など、

ケーザイの専門家から耳にタコができるほど聞かされたキーワードさえ、

「人口構造の変化」という荒波のまえでは無力であると。

まさに一刀両断!

「失業率」がもつとも高い沖縄で、小売販売額や個人所得が伸びているのはなぜか?

「就業者数」が順調に増加しつづけた唯一の県だから。

財布がふくらみ、モノがうれるのは当然。

また、90年度を100とした06年度の小売販売額の水準は、

青森県が98なのに対し、東京都二十三区は90。

これでも「衰退する地方経済」などと言えるのか。

今後十年間で、青森県の65歳以上の人口は二割ふえる。

たしかに厳しい数字だが、若者のつどう首都圏はどうか。

なんと45%の増加が予測されている。

団塊世代は都会が大好きだから。

老人ホームならぬ、老人シティの出現だ!

 

 

 

金融資産を一億円以上もつ個人は、世界に950万人いるが、

そのうちの六人に一人が日本人、という調査があるのだとか。

戦後の経済発展のドサクサにまぎれ、従業員持株会や系列企業持株会などを通じて、

先端企業の株を保有し、億万長者になつたジジババが大勢いらせらる。

宿痾は、この強慾爺がためこんだ1400兆円だ。

彼らはもう家を買わない、車を買わない、スーツも買わない。

肉や酒も好まなくなつたし、もうすぐ死ぬのに勉強する気になれず、本も読まない。

貯蓄が趣味なのではないが、体のことは不安でたまらず、ひたすら資産を保全したがる。

ひさしぶりに大金を出したのは、命のつぎに大切なテレビを買いかえたとき。

それでさえ、「地デジ化のためだからしかたない」と言い訳が必要だつた!

内需不振もむべなるかな。

しかも長寿国日本では、たとえ親が死んでも、相続する側の平均年齢が67歳。

貯蓄は貯蓄にまわり、経済は停滞したまま。

 

 

 

この本のよいところは、政府に過大な期待をかけないところ。

40兆円の税収にもかかわらず80兆円以上つかう機関に、いまさらなにを望むのか。

われわれは、フランス、イタリア、スイスに匹敵する「ブランド」をつくるしかない。

中国やインドと安売り競争をしても勝ち目はない。

自動車会社ならBMWやベンツではなく、さらにその先のフェラーリを目指すべき。

また、日本人の一部の男たちはハイテク製品を崇拝しすぎる。

アップルのiPadより、ルイ・ヴィトンのバッグの方がよほど高価なのに。

戦後の日本で、普通の車や住宅や家電の生産力が発達したのは、

団塊世代や団塊ジュニアの需要をあてこんだから。

その時代は終つたのだから、はやく夢からさめた方がよい。

エレクトロニクスや自動車は大量生産のモデルから脱却できず、付加価値率がひくい。

すぐれた技術を価格転嫁し、人件費をはらえる様な「ブランド」が、

内需やGDPを拡大する決め手になる。

ただ日本のオジサンは、よろこんで若者の雇用を流動化・低廉化させたが、

ある年齢以上の正社員の処遇や福利厚生には決して手をつけなかつた。

こんな土壌で、「ブランド」など育つはずがない。

 

 

 

ほかに民間企業が、みづからの利益のためにできる努力は、専業主婦をやとうこと。

日本女性の就労率45%は、世界的にみても低い水準だ。

七割くらいあるというオランダも、昔は三割くらいだつたのが、

人口が高齢化するなかで女性就労比率があがつたのだとか。

日本もそうなるはずで、あとは経営者が現実を受けいれるだけだ。

団塊爺が金をつかうのは孫の誕生日くらいで、最近はその孫の数がへつている。

女にモテることもあきらめているから、使い道にこまる。

その点、女のオシャレ心はいくつになつても際限がない!

内需の革命的向上が期待できる。

経営者側に女をむかえれば、市場を開拓する可能性もひろがるだろう。

なお、女性の就労率と出生率は正相関するので、

「女が仕事に出ると子どもが減る」という心配も無用だ。

いまどき、共働きでなければ子育てはむつかしい。

家事をだれが負担するのかは課題だが、恰好の適職者がいる。

ヒマをもてあます団塊爺が、社会人として蓄積した能力をいかし、

わかい女性のかわりに家事にあたれば、女たちは経済発展に貢献し、

ジイサマたちは家族の称賛を得ることができる。

これは、悪くない家庭像だよね。

 

 

 

本書は、著者が全国で四千回ちかくおこなつた講演をまとめたもの。

著述を専門としない銀行員ゆえ、あぶなつかしい書きぶりも散見する。

マクロ経済学にケンカを売るあたりは、誤解を招きそうな表現がおほく、

実際にネット界隈では、バカな自称ケーザイガクシャ連中から批判されている。

それでも、すごい本だとおもう。

なにかを読んで脳細胞があわだつ感覚を、ひさしぶりに味わつた。

まるで、カール・マルクスの著作みたいに。

 

共産主義にたいして、宗教的、哲学的、イデオロギー的な観点一般から

なされている非難は、くわしい検討にあたいしない。

人間の生活諸関係、かれらの社会的諸関係、かれらの社会的存在とともに、

かれらの思考、見解、概念もまた、一言でいえばかれらの意識もまた

変化するということを理解するのに、ふかい洞察が必要であろうか。

諸理念の歴史がしめしていることは、精神的生産が、

物質的生産とともにかたちをかえるということ以外の、なんであろうか。

一時代の支配的諸理念とは、つねに支配階級の諸理念にすぎなかった。

 

カール・マルクス フリードリヒ・エンゲルス『共産党宣言』(講談社学術文庫)





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(2010/06/10)
藻谷 浩介

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