「カポディモンテ美術館展」

パルミジャニーノ『貴婦人の肖像(アンテア)』(一五三五~三七年)

 

ナポリ・宮廷と美

カポディモンテ美術館展―ルネサンスからバロックまで―

 

東京展・会場:国立西洋美術館

会期:平成二十二年六月二十六日~九月二十六日

 

 

 

貂の毛皮が、右の肩をあたためる。

 

 

指にかけているのは、貂の鼻にとおした鎖。

ちいさくとも鋭い牙が、持ち主の高い身分を暗にしめす。

視線を一度分、上にあげよう。

 

 

左手は、金のながいネックレスにそつと絡まる。

アヌラーレ(薬指)でなく、ミンニョロ(小指)にルビー。

 

 

 

髪留めは紅玉と、それにしだれる真珠だが、

雪花石膏のごとき肌と見くらべられ、いささか損な役まわりだ。

むしろ二重にめぐらされた編み髪が、

どんな宝石よりも端麗に、顔をひきたたせている。

かぞえきれないほどのリングが、そこにある。

 

 

 

 

 

ホイールをまわし冒頭にもどるのも億劫でせうから、

パルマの淑女に再登場ねがいました。

アンテアは実は、正面をむいていない。

貂にみちびかれ右肩がせり出し、左側はかすかに闇にしづむ。

反時計まわりに、総身が円環をえがく。

美術史をふまえていうと、画家パルミジャニーノは、

ルネサンスの息苦しいプロポーションの規範からはなれ、

マニエリスムの流儀を物にしようと精励していた。

いまさら誰が、レオナルドやラファエロの様な肖像画をかけるだろう。

でも、わたしにしか描けない絵だつてあるはずだ!

三十二歳の藝術家の情炎が、カンヴァスにこもつている。

ちなみに女の正体は、いまだ謎のまま。

「アンテア」とは世にしられた高級娼婦の名だが、證拠はない。

地位ある人間、特にそのわかやぎから花嫁とも推測されるが、

そもそもモデルなどいない可能性もある。

ひとつだけ確かなのは、がんじがらめに身をしばる、

幾重もの鎖の重みにたえながら、そこから一歩踏み出すという素志を、

女と画家と鑑賞者のあいだで共有できること。

 

 

 

 

フセペ・デ・リベーラ『悔悛するマグダラのマリア』(一六一八~二三年)

 

リベーラはスペインうまれだが、おもにナポリで活動した画家。

殺人をおかして逃亡中のカラヴァッジョも、かの町に滞在しており、

マリアの横顔の極端な明暗法に、直接間接の影響をみてとれる。

この暗くて小さな油彩画(78×71cm)は、個人的な祈祷のために描かれたらしい。

注文主は、女だとおもつた。

されこうべと向いあい、おのれの罪をきびしく責めるマリア。

財産ある女は人目につかない部屋で、夜ごと険しい面持ちをみて畏服し、

みじかくない生涯でおかした過ちを、ひとつづつ思いだしたろう。

人の一生は円環をなし、孤独な寝室の闇にとけてゆく。

 

 

 

 

 

フィレンツェのトスカーナ大公の工房による小箱(十七世紀第四四半世紀)


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