レビルの野望 ―― 安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』

 

機動戦士ガンダム THE ORIGIN

 

著者:安彦良和

原案:矢立肇 富野由悠季

メカニックデザイン:大河原邦男

掲載誌:『ガンダムエース』(角川書店)二〇〇六年六月号~

[単行本は第二十一巻まで刊行]

 

 

 

『機動戦士ガンダム』の登場人物は、みな矛盾をかかえている。

初回放映時は視聴率や物品販売がふるわず、たび重なるテコいれを余儀なくされ、

されども結果はサッパリで、全四十三話で打ち切りとなつた制作上の混乱ゆえだ。

後からオタクが、「奥行きのある人物像」とか褒めそやすのが滑稽でもある。

 

 

 

地球連邦軍総司令官・レビル大将は、その最たるもの。

ルウム戦役で「黒い三連星」の奇襲をうけて捕虜となるが、

なぜか脱出に成功してからぶちあげたのが、「ジオンに兵なし」演説。

彼のせいで、「一月戦争」は「一年戦争」になつた。

国民を泥濘にひきずりこむ前途をしりつつ、なぜレビルは煽つたのか?

それをかんがえたい。

 

 

 

 

 

ジャブロー防衛戦で敵将ガルシアを評していわく、「定見のない男のようだ」。

自分には定見があるというに等しいし、

あくまで前線指揮官としてなら、その自己評価はただしい。

ズゴックを駆るシャア・アズナブルらの侵入をしりぞけ、反攻への足がかりをきづいた。

基地ひとつ落とせないシャアなど、青二才にすぎない。

 

 

 

みんな大好き!

補給部隊ミデア隊隊長の、マチルダ・アジャン中尉。

総司令官が、「ガンダム」とよばれる試作機にやけに執着し、

その意思を末端の補給部隊が共有していることに感心する。

オジサンとしては、美人すぎる中尉と話したかつただけかもしれないが。

 

 

開戦まえ、ジオン公国総帥ギレン・ザビとの交渉の席につく。

根つからの軍人だが、もとめられれば外交官の役もつとめた。

 

 

話は前後するが、ソロモンに入城するレビル将軍。

うかれた様子はない。

高官の特権を、かるがるしく享受する俗物とはちがう。

 

 

 

そして、部下をみる目はきびしい。

作戦部長エルラン中将の内通を、なにげない物言いから察知する。

敵にしても味方にしても、手強い男だ。

 

 

 

 

 

ここまでは、「戦術家」としてのレビルしか語つていない。

月と七つのコロニー群をふくむ地球圏全体を視野におさめ、

悪逆無道のジオン軍をおいつめる反攻作戦を構想した、

偉大なる「戦略家」の横顔について、これから考察しよう。

 

 

のちに「コンペイトウ」と改称される、ソロモンでの作戦会議。

ア・バオア・クーではギレン総帥が籠城し、月面都市グラナダにキシリアが、

そしてジオン本国ではいまなおデギン公王の影響力がつよい。

したがつて、磐石とはいえないザビ家の反目に乗じ、

各個撃破するしか策はないが、資産も時間もたりない。

レビル将軍の概況説明はなんだか冴えないし、

幕僚の面々も小首をかしげるばかり。

 

 

カイ・シデン伍長の様な皮肉屋にかかると、脱出劇の英雄も形なしだ。

しかし『機動戦士ガンダム』において、カイの発言はおほよそ真実だ。

ではレビルとは、なにものなのか?

 

 

これもジャブローでの一コマ。

キッカたちを追いかけるフラウ・ボゥは転倒し、レビルにのしかかる。

準軍属あつかいの医療ボランティアが、大将の上にいる。

フラウに飛びつかれて嬉しくない人間などいないが、

それにしても、こまつた顔ひとつ見せないのは異常だ。

階級や軍紀に、関心をもてないタチらしい。

 

 

ゴップ元帥による人物評。

軍上層部においても、レビルは理解をこえていた。

 

 

 

要するに、ヨハン・イブラヒム・レビルはデタラメな司令官だつた。

 

 

 

奸智にたけたデギン公王にしてから、「貸しがある」などと寝言をいつて、

ノコノコと和平交渉の場にひきずり出される。

 

 

だからジ オリジンでは「ジオン本国に向かう!」と

あえて言い切っているんですよ。

これは「さあ手を上げろ!和平したいんだろ?」というジェスチャーです。

この時点ではむしろア・バオア・クーには行かないつもりで。

まさにレビルとデギンのチキンレースみたいなものです。

その結果デギンが手を上げてしまった。

 

単行本二十一巻での、安彦良和の発言

 

 

この期におよんで、仇敵の立場をおもんばかるレビル将軍。

真意をはかりかねる。

宇宙一の無責任男にふりまわされた御隠居は、息子にレーザーで焼き殺され、

ドラ息子は妹に射殺され、覆面の女は弟の様に面倒をみたシャアに討たれた。

一年戦争の、戦塵がおさまる。

レビルは、自身と国家の運命を見通してはいない。

ただ誰よりも負けず嫌いで、戦争にしか興味のないジイサンで、

デタラメな言動が狂騒をまねき、ついに地球圏に平和をもたらした。

ほんのひとときでは、あるけれど。





機動戦士ガンダム THE ORIGIN (1) (角川コミックス・エース)機動戦士ガンダム THE ORIGIN (1) (角川コミックス・エース)
(2002/06/01)
安彦 良和矢立 肇

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