『エグザム』

 

エグザム

Exam

 

出演:ルーク・マブリー ジミ・ミストリー ナタリー・コックス アダル・ベック

監督:スチュアート・ヘイゼルダイン

制作:イギリス 二〇〇九年

[シアターN渋谷で鑑賞]

 

 

 

このイギリス映画では、世界的大企業による極秘の就職試験のなかで、

八人の男女が本性をあばかれてゆく様相をたのしめる。

 

 

試験会場。

カメラはこの薄暗い密室から、一歩も外に出ない。

受験者が部屋から出たら、その時点で失格になるから。

 

 

高圧的な試験監督が、数すくない規則をおしえる。

制限時間は八十分。

問題はひとつ、解答もひとつ。

 

 

警備員をのこして試験監督は退室し、ついに競争がはじまる。

一生涯を保障できるほどの報酬をもとめて。

 

 

はやる心をおさえつつ、ウスッペラな用紙をめくる。

 

 

だがそれは、まつさらの白紙だつた。

 

 

一秒ごとに、焦りの色が濃くなる受験者たち。

問題が何かさえわからない「試験」に、人生は賭けられない。

 

 

敵同士ひとまず手をくみ、問題を探し求める。

カメラは淡々と、見苦しい奮闘ぶりをうつす。

未来の雇用主に監視されていると、うすうす感じたとしても、

誰がおとなしく椅子にすわつていられるだろうか?

 

 

そして当然、摩擦が生じる。

ひとつのセットで撮影した低予算映画なのに、いやだからこそ、

御しがたい人間の「エゴ」が、フィルムに焙りだされる。

福本伸行の漫画が、あれほどヘタクソな絵なのに、

ドストエフスキーの小説の様に真に迫るのに似ている。

 

 

 

 

 

ヘアピンで薬のカプセルをひろう場面。

題材としては、舞台劇の方が映えそうな『エグザム』が、

映像作品であるべき点は、小道具のあつかいにある。

人は、ステージ上のヘアピンまで視認できない。

 

 

問題用紙に火をともし、スプリンクラーを作動させる。

ある意味で白紙が、本作の主人公だ。

 

 

一枚の紙は、凶器にもなる。

紙、この厄介な代物に、我らはどれほど翻弄されていることか!

 

 

受験者のひとりである「デフ(聾者)」。

下をむいてブツブツと、フランス語でつぶやいてばかりの変人だ。

ヘリクツを述べることだけ巧みで、実際に何もできないフランス的精神を揶揄して、

「サルトル」なんてあだ名をつけられる。

 

 

部屋の様子や照明を変えるのも一手だったけどそれでは不十分だったので、

受験者たちが試験問題に多様に取り組む様子を、

実際的、哲学的、心理学的、そして身体的という4つのセクションに分けて、

それぞれセクションごとに展開することにした。

 

ヘイゼルダイン監督による脚本の説明

「『エグザム』公式サイト」

 

この映画には哲学がある。

空白の問題用紙は、「タブラ・ラーサ(何も書かれていない石板)」だ。

人は白紙を目の前にして、たじろぐ。

自分という存在が試されていることに。

わたしは一体、なにものなのか?

一枚の白紙にまさる雄弁さを、ステージでは表現できないはずだ。

 

 

 

 

 

人種差別と性差別にもとづく発言を、確信犯的に弄して、

主導権をにぎろうとする、憎らしいルーク・マブリー。

 

 

だれよりも冷静だが、だれよりも悪どい、賭博師のジミ・ミストリー。

『キューブ』でも『es』でも『ソウ』でも、密室を舞台とする映画では、

役者たちが輝く、いや輝かざるをえない。

 

 

個人的にお気に入りなのが、心理学者「ダーク」役のアダル・ベックだ。

イスラエルうまれというのが、「らしく」てよい。

 

 

おびえる所作ですら、うつくしい。

眼鏡をかけた美人に、太刀打ちできる者などいない。

 

 

物語の中盤で拘束され、ひどい目にあうが、それは運命だ。

メガネ美女、その美貌と知性をひけらかす高慢さは、相応の報いをうける。

たかがメガネ、されどメガネ。

小道具が、作品の骨格をさだめる。

映画つて、本当におもしろいですよね!


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苑田 謙

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