横井軍平の暗闇 ― 『X-RETURNS』

 

X-RETURNS

 

発売:任天堂 平成二十二年

開発:キュー・ゲームス

ディレクター:ディラン・カスバート

対応機種:ニンテンドーDSiウェア

 

 

 

陸空両用の戦車「VIXIV」を単騎かりたて、

虚空にちらばる惑星を探索してまわる。

本作は十八年の時をへて復活した、ゲームボーイの名作『X』の続篇だ。

ディレクターは、前作をてがけたイギリス人のディラン・カスバート。

作曲も、当時新人だつた戸高一生をふたたび起用した。

失礼ながら、こんな小粒なダウンロード販売のソフトに、

惜しげもなくエースを投入した任天堂の酔狂にあきれる。

 

 

 

 

 

惑星間は、トンネルを高速でかけぬける。

とたけけの音楽が、プレイヤーをクールに昂揚させる。

 

(画像は英語版)

 

橙色が目にまぶしい惑星で、あらたな任務にとりくむ。

星ごとにことなる、大胆な色彩がたのしい。

たとえばバーチャルボーイを連想させる、赤と黒。

惑星「アース」の、心やすらぐ青と緑。

前作の舞台だつた「テタムスII」は緑と黒で、

ゲームボーイのモノクロ液晶そのものだつた。

比較のため、前作の画像ものせておこう。

 

トンネル

 

 

惑星探索

 

上官である「コーチ」

 

エミュレータでは、液晶の色味を出せないのが悲しい。

それはともかく、『X-RETURNS』の不変ぶりに目をみはる。

 

 

 

 

 

モノクロームが、想像力を刺激する。

積木の様に単純なポリゴンでえがかれる風景は、

幾何学的で抽象的で、SFの世界につながる夏の扉をひらく。

デザイナーは泣かされたろう。

意匠の専門家がえらんだ「キレイな色」が気にいらず、

カスバート氏はランダムで色彩をきめたらしい。(参照:『N.O.M』2010年7月号

もとプログラマーの要求は、まるでエイリアンの侵略だ。

なかには、まともに敵を識別できない惑星まである。

しかし、「キレイな宇宙戦争」なんて嘘くさくないか?

二十一年まえに発売されたゲームボーイをつくる際、

任天堂の横井軍平がモノクロ液晶を採用したのは、価格と電力消費のため。

ただそれ以上に横井は、見かけの派手さに興味がなかつた。

 

私はいつも、「試しにモノクロで雪だるまを描いてごらん」と言うんです。

黒で描いても、雪だるまは白く見えるんですね。

リンゴはちゃんとモノクロでも赤く見える。

昔の映画だって、カラーだったかモノクロだったか、

あまり覚えていないものでしょう。

人間は色を概念として見てしまうんですね。

 

横井軍平『横井軍平ゲーム館』(アスペクト)

インタビュー・構成/牧野武文

 

「概念」としての、ビデオゲーム。

めざめた後におもいだす、夢の記憶の様な。

 

 

 

 

 

横井軍平を神格化するのはつつしみたい。

彼はあくまでオモチャの世界の住人であり、ゲームの人ではない。

「任天堂=横井軍平」では決してない。

むしろファミコン以降の時代を、苦々しくおもつていたフシがある。

ファミコンの筐体にいかされた横井の着想は、「十字キー」と「イジェクター」のみ。

おほくの人が「十字キー」の革新性をほめたたえるが、

ボクはコストは十円程度の「イジェクター」に魅力を感じる。

「シュコン!」となめらかにソフトをおしだし、別のソフトをさしこむ。

「いろんなゲームを遊んでくれ」という、開発者のメッセージがそこにある。

ただソフトの中身より、ソフトを排出する方に横井らしさが表れているのが皮肉だ。

また、ゲームボーイを彼の代表作にあげるのも失礼ではないか?

そのとき下されたミッションは、「ファミコンより安い携帯ゲーム機」をつくること。

ウルトラハンド、ラブテスター、光線銃SP、ゲーム&ウォッチ…。

キラ星のごときヒット商品をうみだした頭脳にとって、退屈なしごとだ。

 

 

 

 

 

ボクなどがなんといおうと、軍平さんの名声は高まるばかり。

当の任天堂が、「黒歴史」だつたはずのバーチャルボーイをなぞる様に、

立体視がウリの「ニンテンドー3DS」なんてのを発表する始末だ。

『X-RETURNS』もどこまで意識したかしらないが、

「赤と黒」、バーチャルボーイの二色を象徴的にあしらう。

ゲームぎらいの男が心血そそいだ、

斬新すぎるゲーム機の特色は、LEDディスプレイを搭載したこと。

液晶だとバックライトをつかうから、どうしても光がもれる。

最高級の液晶テレビでも、完璧な「黒」は表現できない。

だがLEDの「黒」につつまれれば、人は無限遠を感じられる。

暗闇。

そこになにもないことで、プレイヤーは慄然とし、

妄想は自然にひろがりつづける。

宇宙の果てまで。

横井軍平の哲学が、簡単には表にでない深いレベルで、

京都の会社に受け継がれていることがわかつた。





横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
(2010/06/25)
横井 軍平牧野 武文

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ジャンル : ゲーム

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