映画『グラディエーター』にみる「帝国」

 

グラディエーター

Gladiator

 

出演:ラッセル・クロウ ホアキン・フェニックス コニー・ニールセン

監督:リドリー・スコット

制作:アメリカ 二〇〇〇年

 

 

 

鬱蒼たるゲルマニアの森で、にぶい光を放つひとふりの剣。

北方軍団の司令官マキシマスが、混戦のさなかに突き刺したものだ。

 

 

蛮族をたいらげたあと、所有者の手にかえつた。

用兵にたくみで、兵からの信頼あつく、ローマの英雄でもあるマキシマスは、

皇帝マルクス・アウレリウスに、実子をさしおいて帝位を継ぐようたのまれる。

マキシマスは架空の人物だが、たしかにその人物像は現実ばなれしている。

そもそもローマ帝国は、「英雄」を必要としない。

 

 

映画でローマ軍は火矢をはなち、森ごと異民族を焼きはらう。

貪欲で残忍な、征服者としてのローマ帝国。

 

 

戦陣にたつ哲人皇帝。

この爺むさい姿こそローマだ。

アウグストゥス以降、新領土の獲得はきびしく制限されていた。

ブリテン島、ダキア、メソポタミアへの遠征は、皇帝自身が指揮をとる。

皇帝権力に挑戦する「英雄」がうまれない様にするため。

地中海を制し、自国の湖とかえたローマの富はすでに莫大なもので、

戦争は祖国防衛を目的とされ、軍人の行動は監視されていた。

あらゆる帝国が好戦的とはかぎらない。

 

 

 

 

 

ただしローマ市民が戦いをこのんだのは事実だ。

血なまぐさい娯楽を提供するため、巨費をついやし円形闘技場がつくられた。

 

 

善良でまじめな市民が、虐殺の場面に熱狂する。

この悪趣味に眉をひそめる向きもないではなかつた。

しかし観衆は、皇帝が見世物に無関心さをしめすだけで非難する。

円形闘技場が、ローマ社会の秩序をささえていた。

 

町の中心に位置するこの円形闘技場という空間では、

軍事中心主義に根差ざした社会に生きる人々が、

平和な時代になっても―ときには互いに傷つけあいながら―

引きつづき戦いを継続していたのである。

北方ヨーロッパの壮大な中世教会と同じように、

円形闘技場は多くのローマ都市の景観を色濃く特徴づけていた。

 

クリストファー・ケリー『1冊でわかる ローマ帝国』(岩波書店)

 

 

虎におそわれるマキシマス。

武器をもつ剣闘士ならまだマシで、ときにはキリスト教徒の一群をおくりこみ、

鉄の椅子で焼き焦がし、雄牛の角で突き刺し、飢えた獅子に食いちぎらせた。

ただこの宗派が一風かわつているのは、「殉教」を宣伝の機会ととらえていたこと。

属州アシアでキリスト教徒と称する群集が、みづからを死刑に処すよう要求したときは、

死にたいなら絶壁から身をなげろと、総督を激怒させた。

信徒を猛獣の餌にして楽しむうち、ローマ帝国はキリスト教化する。

 

 

 

 

 

皇帝コンモドゥスの凱旋パレード。

リドリー・スコット監督はこの場面を、レニ・リーフェンシュタールの『意志の勝利』(一九三五年)

を連想させる様に演出したと認めている。

ヒトラーがニュルンベルクでナチスの党大会に登場する様子が、かさねられた。

 

 

元老院議場が、コロッセウムにむかいあつて建つ。

支配を象徴する建築物の壮大な配置は、ヒトラーが計画した新ベルリンの構想を模したもの。

実際の二世紀のローマは、道がせまく、中央広場には建物が密集し、

映画むきのパノラマなどとても提示できなかつた。

ようやく一九三二年に、ムッソリーニが軍隊を行進させるべくインペーロ通りをつくつたとき、

それに近い光景が出現したにすぎない。

現代人の想像力は、ヒトラーとムッソリーニ、

独伊の迷コンビの夢から、まだ半歩も踏み出せていない。

 

 

映画ではのちに帝位をつぐルキウス役の、スペンサー・トリート・クラーク。

最近の活動はしらないが、ボクは本作でのソバカスまじりの微笑をわすれられない。

美少年の透明な魅力だけは、時代をこえた真実だと信じたいが、

これも調べてみたらまた違うのだろう。

歴史、それは容易に飼い慣らせない猛獣だ。





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