香取郡のスティーヴ・ジョブズ ― 岩澤信夫『究極の田んぼ』

 

究極の田んぼ 耕さず肥料も農薬も使わない農業

 

著者:岩澤信夫

写真:鳥井報恩

発行:日本経済新聞出版社 平成二十二年

 

 

 

あえて耕さない田に、冬も水をはる。

かたい田んぼでそだつたイネはつよく、多収穫をもたらす。

上の写真は、イネ刈り後に繁殖するイトミミズ。

排泄物が肥料になるだけでなく、雑草の発芽もおさえる。

無肥料・無農薬だから生物多様性がたかまり、

メダカ・アカトンボ・カエル・ガンなどの生きものの集う、

心やすらぐ田園風景がそこにひろがる。

 

 

トラクターと野鳥の共存。

まさに楽園だ!

七十八歳の著者は、一生涯をかけこの農法を開発した。

iPhoneやiPadの革新性への讃辞は聞き飽きたのに、

わが国で、これほどのイノベーションがおきていたと知らず、

ボクなど読んでいて恥づかしくなつた。

 

 

 

ほそながい山岳国家の日本には、滝みたいな急流しかなく、

表土が流出して、ギリシャ風の岩山になりはてる可能性がある。

しかし山裾をとりまく田んぼが、降雨量の七十五パーセントを貯水し、

ダム機能をはたすことで、緑ゆたかな景観をまもつている。

特に棚田は、不耕作地となり人の管理がなくなれば、崩壊しかねない。

また千葉県には、印旛沼という日本一汚い水源がある。

小学校のときバスでつれられ、ボクも汚染ぶりを眺めにいつた。

著者によると「不耕起・冬期湛水」の田は、生物濾過により水を浄化できるのだとか。

印旛沼周辺の六千ヘクタールの水田に、この農法を導入すれば、

浄水場をたてなくとも、たちどころに水が奇麗になる。

その様に県知事と交渉をかさねたらしい。

「百姓」の通念を一変するほどの、壮大な企図だ。

技術革新をテコにして、社会をかえんとする情熱。

 

 

 

さらに風呂敷はひろげられる。

食糧が無限でないことを、ほかのどの職業よりも知る著者は、

飢餓がふたたび日本をみまう時代を想定する。

米ではタンパク質をおぎえないから、ダイズの大増収技術の開発をはじめた。

かつてキューバはソ連崩壊後、依然つづくアメリカの経済封鎖のおかげで、

一夜にして飢餓状態におちいつた。

あらゆる空き地を開墾し、道路の分離帯にまで種をまき、

「国民皆農」の態勢で飢えをしのぐ。

資源が皆無なためミミズの力を借りるほかなく、

結果として有機農法の先進国とみなされるにいたつた。

日本では、いつかおとづれる「国民皆農」時代にそなえる第一歩として、

週末に都会からあつめた人に農作業をおしえ、

収穫物を共有する、田んぼの市民農園制度を組織するそうだ。

ここまでくるとスティーヴ・ジョブズどころか、フィデル・カストロもびつくりで、

大躍進政策の失敗で数千人の餓死者をだした毛沢東など、

面目は丸つぶれ、さぞかし地獄で肩身のせまい思いをするだろう。





究極の田んぼ究極の田んぼ
(2010/04/02)
岩澤信夫

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