女は度胸 ― 『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』

 

アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生

Annie Leibovitz: Life Through a Lens

 

監督:バーバラ・リーボヴィッツ

制作:アメリカ 二〇〇七年

[DVDで鑑賞]

 

 

 

こまつたな。

毎月恒例の企画「ブログ DE ロードショー」の第六回は、

『陽面着陸計画』のなるはさんが作品選定をつとめられた。

タイトルはなんと、アメリカの写真家についての記録映画。

そんな高尚なもん、徒歩圏内の店にあるわけない!

置いてあるのは、ハリウッド超大作と、テレビドラマ原作の邦画だけ。

前回、東京都羽村市出身のロッカリアさんが、

『チャイナタウン』(一九七四年)をえらんだときは黙殺したけど、

 

東京都羽村市の風景(『そまのほ』から借用)

 

なるはさんには世話になつているので、そうもゆかない。

電車で新宿に遠征し、未入会のツタヤにみかじめ料をおさめ、

やつとこさ虎の子のDVDを入手した。

藝術ドキュメンタリーというジャンルも気にくわない。

コメントが皆無のエントリもざらな不人気ブログにとり、

この企画は、社交辞令コメントを沢山もらえる唯一の機会だ。

「ケンさんは文章がお上手ですね!」

「目のつけどころがスゴい」

「まるで短編小説みたい」

「結婚して!」

などなど。

しかしお題が記録映画では、いつもの自己陶酔的文体で、

いつもの自己満足的文章を書けないのが悲しい。

 

 

 

アニー・リーボヴィッツ、一体何様なんだコイツ、

とぼやきながら、PCに借りものの円盤をねじこんだ。

写真家の早口の第一声が、本作の主題をあかす。

「わたしが一番こたえづらい質問は、

あなたは商業的な写真家なのかどうか、というものね」

つまり自分は、ビジネスと藝術のどちらも追求できる、

イイトコ取りの写真家だと言いたいらしい。

 

 

マリー・アントワネットに扮する、カースティン・ダンスト。

「せつかく着飾つたのに、撮影が十分だけ?」とおかんむり。

リーボヴィッツ先生はニコヤカにとりなすが、その心中では、

「お嬢チャン、そんなにウブではこの業界で生き残れないね」と、

鼻で笑つていただろう。

でもボクは、カースティンの気持ちがわかる。

女優としては、おめかしにかけた時間の分だけ撮られたいし、

写真家は多少いそがしくても、こたえるべきだろう。

プロ同士の礼儀だ。

わかくて奇麗だから、肩を持つのではないですよ。

 

 

 

 

 

奥の地味なメガネ女が、未来の巨匠アニー・リーボヴィッツ。

美術教師になりたくて、アートインスティテュート・サンフランシスコ校に入学するが、

「まづ自分が藝術家にならなければ、教師にはなれない」といわれ、

面倒くさい絵画から、バカでもチョンでもできる写真に転向した。

 

 

レンズとフィルムの藝術形式にのめりこむうち、あることに気づく。

旅先にカメラをたづさえると、撮影という目的がうまれる。

だから写真家になれば、ずつと旅をつづけられる。

カメラが彼女の人生をみちびく。

どこか成り行きまかせの処世術。

リーボヴィッツの作品には、自己陶酔も自己満足も感じないが、

その理由は、彼女の旅の出発点にありそうだ。

 

 

右が、ボディビルダー時代のアーノルド・シュワルツェネッガー。

男くさい現場でも、リーボヴィッツ女史は忍者みたいに融けこみ、

くつろいだ様子を「作品」に焼きつける。

同性愛趣味をもつ女であることが、隠れ蓑になつただけでなく、

藝術家にありがちな、獰猛なエゴがないからできる藝当だろう。

 

 

 

 

 

薔薇をしきつめたベッドによこたわる、ベット・ミドラー。

はじめは嫌がつたが、すべての棘が手で抜かれていることを知り、

「奴隷」の様に、写真家に身をまかせた。

わがままなスターを操縦するのは、シャッターを押すほど簡単ではない。

でも、カメラをかかえた旅人は苦労話をこのまないから、

地獄を見たことは胸に秘め、笑い話ですます。

たとえば、ローリング・ストーンズのツアーに同行取材したとき、

写真家はそのすべてにつきあつた。

朝も、昼も、夜も。

そこまでしなければ、ストーンズは素顔を見せないから。

 

 

麻薬中毒から更生するため、リハビリ施設にはいるリーボヴィッツ。

薄毛だつたり、彼女は年齢以上に老けて見えるときがあるが、

若いころの不摂生の結果かと勘ぐつてしまう。

醜く老いさらばえ、死神みたいなキース・リチャーズよりはマシだが。

エゴが無いなら無いなりに、藝術家の背には苦悩がのしかかる。

 

 

 

まえにも書いたが、なるはさんは当ブログの最初の読者だ。

いまでも相当暗いが、開始時はもつとひどくて、

世界に対し呪詛をとなえるブログだつたが、

彼女は、あつけらかんと称賛のコメントを寄せてくれた。

社交辞令にはおもえなかつた。

天から光がさした。

むかしの記事を読みかえすと、自分が読者だつたら、

死神が運営する様な、あんな陰気なブログには関りたくない。

女は度胸。

この企画に藝術ドキュメンタリーをえらんだのも大胆だが、

なるはさんは、本作の冒頭しか見てなかつたとか。

小心なボクが、第四回の選定をまかされたときは、

フライングするなと厳命されていたにもかかわらず、

何枚もDVDを見まくつたのに!

リーボヴィッツのこまやかな気配りと、相手の懐にとびこむ肝つ玉は、

なるはさんに通じるものがあり、不思議な感動をおぼえた。

『チャイナタウン』を無視したボクが、総武線で二往復した理由がわかるでせう?

まあ、薔薇のベッドに寝るつもりはないけれど。


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