ねむれよい子よ ― 「彼女について私が知っている二、三の事柄」をみて

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かの女についてわたしがしっている二、三のこと
2 ou 3 choses que je sais d'elle
(1966年 フランス)
出演:マリナ・ヴラディ アニー・デュプレー ロジェ・モンソール
監督:ジャン=リュック・ゴダール

ゴダールがつくった映画をみるのはいつだってたのしい
きちがい道化師がつづる私小説のやりきれなさに、暗闇のなかでにやにやしながら悦にいる
おれは映画館のいすにうずまりながら缶コーヒーをちびちびのむのを無上のよろこびとしていて、かれの作品はそういう鑑賞スタイルにぴったりなのだ
コーヒーがのみおわると一気にねむくなるのは勘弁してほしいが
山崎邦正のような天然ボケのお笑い芸人にも芸風がにている
ゴダールなんかといっしょにされたら、スベリ芸の名人である山崎がおこるかもしれない
まあかれらが計算しているのか、たんなるバカなのかはだれにもわからない
たしかなのはバカにみえるということだけ

マリナ・ヴラディふんするヒロインは、夫には秘密で売春をつづける団地妻
その金で買い物をしたり、カフェで男をさがしたりと享楽的な生活をおくる
ゴダールは雑誌で報じられた実話をもとに、実験的な手法をもちいてパリ郊外の退廃をえぐりだす
…書いてるだけでわらえますね…団地妻の売春て(笑)
ゴダール先生さすがです
本作には、意表をつく編集のわざ、ノイズの挿入、雑多で難解なモノローグの洪水といった、のちのゴダールを特徴付ける手法がすでに出そろっている
「ヌーヴェルヴァーグ時代」の初期ゴダールと、「分断と再構築によるメタ映画」の中期以降のゴダールをつなぐ重要な作品なのだ!
政治に関心をつよめているまっ最中のゴダール先生のことですから、ベトナム戦争にかんする言明ももりだくさんで、はずかしさのあまりに闇のなかで顔も赤らみます
ヒュー・グラント主演のロマコメのほうがまだましです

この作品のあとの1967年、ゴダールは「中国女」をつくる
毛沢東主義をテーマとし、五月革命を先どりしたともいわれる作品
…毛沢東(笑)
いや、毛沢東ってあの毛沢東のことですよ
大躍進政策の失敗で何千万もの餓死者をだし、文化大革命で大量殺戮をおこない、チベット人などの少数民族を虐殺したことで世界的に有名な方です
―ゴダールは中国政府を積極的に支持したことはないからOK
―ゴダールは「政治の映画」をつくったのではなく、「映画の政治」をおこなっただけだからOK
あたまのいかれたゴダール信者はそんな失礼なことをいって先生を擁護しようとします
しかし、ぼくのだいすきなアンヌ・ヴィアゼムスキーと二人三脚で地雷をふんでこそ、ヨゴレ芸人たるゴダール先生の本領発揮といえるでしょう
バカには先生の芸のおくふかさがわからんのです
毛沢東は数億人の死に直接の責任がありますが、たのまれもしないのにヨーロッパでの毛の宣伝役を買ってでた先生にも0.1%程度の間接的責任があるでしょう
すくなめにみて数十万人をころしたことになりますかね

おそらく「二、三のこと」をつくった1966年にふみとどまるべきだったんでしょうね
五月革命は1968年、先生は革命前夜の空気にあたってすっかり頭に血がのぼってしまいます
でも先生は革命の当時38歳ですよね
そうとう未熟で世間知らずの映画バカわかわかしい感受性のもちぬしだったんですね

「二、三のこと」にはマリナ・ヴラディの娘役で金髪のかわいい女の子がでてきます
まだ三、四歳くらいでしょうか、映画のなかでギャーギャーなきわめくシーンが二回あります
ふつうにマジ泣きです(笑)
共演のおとなの役者にしてみたら悪夢ですが、先生はそんなアクシデントも作品にとりこみます
ていうか先生の芸風が赤ん坊にそっくりです
わがままで予測不能な行動、突然のなきわめき、不明瞭な言語コミュニケーション能力
まさにそのものです
先生が政治的発言の是非をとわれないのも当然です
乳幼児に責任能力はありませんからね
先生の映画をみてると、「おれはなんでこんな映画をみてるんだろう…はやくおわらないかな」と腕時計をみながらつぶやきたくなります
むずがってねむろうとしない赤ん坊をあやす母親のきもちににていますね

女優をきれいにかわいく知的にみせ、構図がかっちりきまったうつくしい風景をきりとり、弦楽器の旋律をたくみに配してふかい瞑想にさそい、ユーモアとニュアンスにとんだセリフをちりばめる
映画作家ならだれもがうらやむような、そんな先生のセンスはたぶん世界一です
悪気がないので、他人に迷惑をかけてもゆるされる人徳もおもちです
でも悪気がなさすぎなのもちょっとこまりものですね
先生が映画でいいたいことって、おっぱいのみたいとか、おしっこしちゃったとか、その程度のレベルじゃないですか
ちょっと失礼ないいかただったかもしれませんね
でもいいたいことがあるなら、観客にもわかるように作品ではっきり表現するべきでしょう
何年映画つくってるんですか?
そろそろ落とし前をつけないと、中国やソビエトの亡霊たちにいざなわれて、地獄の門をくぐることになりますよ

それでは、今夜も先生がやすらかなねむりにつけることをおいのりしております

[早稲田松竹にて鑑賞]
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