さよなら、ブリタニー
一月二十四日に、ブリタニー・マーフィ主演作品『ラーメンガール』をみて、
ボクの平成二十一年ははじまつた。
太平洋のかなたのあこがれの女優が、新宿のきたないラーメン屋で、
西田敏行にシゴかれる姿に目をうたがつた。
なんの天変地異の前ぶれかと、おそれおののいた。
そして年の瀬をむかえ、にゃもさんのブログ『Heart Attack』をのぞいたら、
「女優ブリタニー・マーフィさん亡くなる 32歳」という見出しがあつた。
にゃもさんが、ブリトニー・スピアーズの名をタイプミスしたなら良いのにと、
不謹慎な反応が、やにわに脳裏をよこぎる。
数秒後、ボクは現実をうけいれた。
ブリタニーは十二月二十日、心不全で命をおとした。
ボクがもつている数少ないDVDである、
『8 Mile』(カーティス・ハンソン監督/アメリカ・ドイツ/二〇〇二年)をみた。
つぶらな瞳のしたに隈をつくり、やさぐれて不健康なブリタニーがそこにいた。
うつくしかつた。
昼休み中の自動車工場の重機のかげで、愛しあう。
右の手のひらを、唾液で入念にぬらすブリタニー。
男のそれを湿らすために。
一秒でもはやく、うけいれたい。
せつかちすぎる愛。
でもこの一瞬をのがせば、つぎの機会はいつかわからない。
事実ふたりが体を重ねたのは、このときだけ。
はげしく動き、果てた男を、小馬鹿にする様にわらう。
その滑稽な一部始終がおかしくて。
でも、なんだかいとおしくて。
じり貧の田舎町から抜け出したい、ただその一念で、
ブリタニーがほかの男と寝たせいで、ふたりの関係はおわる。
あつけなく。
実質上の、別れの場面。
手のひらとニット帽ごしに、キスをおくる。
あのときみたいに、右手を口につけて。
たしかにそれは儚い出来事で、おたがいの顔も名前も、すぐに忘れるかもしれない。
でもわたしは、すくなくともあの瞬間は、本気だつた。
だれがなんと言おうと。
数時間後、MCバトルの大会で優勝した恋人は、群衆のなかにブリタニーをさがす。
そしてふたりは、出会つたときと同じ様に、挨拶がわりに中指をたてる。
涙なんて、わたしたちに似合わない。
さよなら、ブリタニー。
この時代にしか存在し得なかつた個性。
ボクが映画を見つづけるかぎり、キミのことは忘れない。
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