胸に星空をいだく女 ― 『ジュリー&ジュリア』

 

ジュリー&ジュリア

Julie & Julia

 

出演:メリル・ストリープ エイミー・アダムズ スタンリー・トゥッチ

監督:ノーラ・エフロン

制作:アメリカ 二〇〇九年

[新宿武蔵野館で鑑賞]

 

 

 

高名な料理研究家ジュリア・チャイルドにあこがれ、

一九六一年にでた著書の全レシピを再現するブログをはじめた、

二十九歳の公務員ジュリー・パウエルの実体験にもとづく作品。

そこに年代をこえて、外交官の妻だつたジュリアが、

戦後のパリで本式の料理をまなぶ過程が重ねあわされ、

とにかく全編食い物ばかり!

食い意地のはつたオバチャンが会場を埋めつくし、

毎日ひもじい食生活にたえるボクは、肩身がせまかつた。

なにせ、「男子厨房にはいらず」の教えを忠実にまもり、

たまに松屋で「牛焼肉定食(630円)」などを注文すると、

贅沢しすぎた、と悲しい気分になる男なのでね。

 

 

料理はうつくしくない。

映画研究者の丹野達弥は、伊丹十三の『タンポポ』を評して、

「喰い物が主題ってのはどうも絵にするとバッチイ印象になる」といつた。

映画を見ているとき、ヒトは目と耳に依存するが、

そこに舌と鼻にむすびつく「食べ物」が挟み込まれると、

大脳の感覚野は撹乱され、悪印象だけがのこる。

ちがうというヒトは、残念ながら映画をみる目がないのでは。

 

 

 

ではなぜ、栄養失調ぎみの管理人が本作を見たかというと、

エイミー・アダムズが大好きだからです。

団子より花なんす。

 

―ジュリーと共感するとことはありましたか?

 

たくさんあったわ。

9.11後の社会で30歳になろうとしている彼女は、生き方に迷っている。

分岐点に立って決断を下そうとしているの。

それは私も経験してきたことよ。

そういったことを率直に描いた映画というのは滅多にないと思う。

 

プログラムのエイミー・アダムズへのインタビューから引用

取材・文:細谷美香

 

エイミー姫がタネをあかす通り、戦争と政治がこの映画の隠し味だ。

料理研究家ジュリア・チャイルドは、ながく政府機関ではたらいた人だし、

外交官の夫は、戦時はCIAの前身である戦略諜報局(OSS)に属していた。

「赤狩り」でしられるジョゼフ・マッカーシー上院議員をめぐり、

食事中だというのに、ケンカ腰で議論する場面まである。

ノーラ・エフロン監督の両親は脚本家だつたそうで、

おそらく、ハリウッドを標的にした赤狩りの恐怖は、

幼かつた彼女の記憶に焼きついた、家族の食卓の光景のひとつなのだ。

そして、どれだけ通俗的な作品にかまけても、

政治との接点は失わないという伝統が守られたから、

当節のハリウッド映画はかろうじて現実味を保つている。

 

 

 

いやいや、年の暮れも無粋な話でスミマセン。

世界のどこでも、食べているときに政治と宗教の話は御法度。

一杯のビールで上機嫌になり、政局を語りだした父に対し、

母が眉をひそめるなんてのは、ウチの家族だけではないはずだ。

天下国家を憂うより、目の前の料理をホメなさいよ!

そんなこんなでボクは、ますますエイミー姫が好きになる。

いたましいテロ事件を念頭において演じながらも、

深刻さは感じさせず、みじかくした髪型はまるで十五歳の少年みたい。

不器用なシェフの悪戦苦闘ぶりが、観客をわらわせる。

政治の世界と同様に、料理の世界もキレイゴトではないけれど、

彼女の芝居はすこしも下品にならない。

その高貴さよ。

 

 

屋上に友人をまねいたディナーの場面。

 

あの夜はスタッフ全員の間にとても穏やかで幸せな雰囲気が漂っていた。

あまりにも美しく、魔法のような時間だったから、

心の中で何枚も写真を撮ったわ。

みんなが屋上に揃い、ひとつの共同体なんだという想いを強くした。

そこがニューヨークの晩春の素敵なところね。

 

同記事から引用

 

出演作を宣伝する口上が、キラキラかがやく一篇の詩になる。

ボクも負けじと、胸の奥のメモリーカードの容量が不足するくらい、

エイミーのサファイアの瞳を記録した。


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