愛をもとめて ― NHKスペシャル取材班『職業“振り込め詐欺”』

職業“振り込め詐欺”

 

著者:NHKスペシャル「職業“詐欺”」取材班

発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン 平成二十一年

[ディスカヴァー携書 ]

 

 

 

さすがに、一万六千の従業員を抱えるNHKの取材力は大したもので、

「振り込め詐欺」の被害者はおろか、十数の詐欺集団を統括する大物まで、

直接取材をおこなつたことに感心させられる。

「紛失した顧客データの修復に二百万円かかる」と泣きつく息子(を名乗る男)に、

二回にわたり三百五十万円を送金した、山口県在住の七十一歳の男の告白。

 

これはだまされた人じゃないとわからない。

助けてほしくても誰にも言うところがないんですよ。

周りに言っても、『何でだまされたの、テレビでよくやってたじゃない、

バカだねえ』って言われるだけだからね。

自分でも、あの時なんでもう少し考えなかったのかって。

自分がバカだった、自分がバカだったって思い続けるしかないんです。

 

年寄りは一日中テレビばかり見ているから、

自身が新手の詐欺のカモにされていると、知らない者はいない。

悪党はそれを逆手にとる。

最新の時事問題を話題にえらんで電話をかける。

教え子に猥褻行為をはたらいた教師がつかまつたら、教師の家族をねらう。

飲酒運転が問題視されたときは、会社員の家族を重点的に。

テレビなど見ない方が、健全な知力を保てるとボクはおもうが、

両親にはなかなか分つてもらえない。

四百万円を振り込んだ埼玉県の七十代の女は、

その被害を息子に報告したところ、叱責されてしまう。

オレは一生懸命働いているんだから、飲酒運転なんてするわけないだろ。

息子が信じられないのか。

被害額以上の打撃が、家族の絆にいやしがたい傷をおわせる。

 

 

 

ウィークリーマンションなどのアジトを転々としながら、

詐欺集団は一日十二時間、ひとり三百件の電話をかける。

カネの運び役や、ATM引き出し役は別働隊としてはたらき、

特に「出し子」とよばれる引き出し役は、

最末端の使い捨てのコマなので、主犯格とは決して接触しない。

組織構成は本格的だが、ボクがやるとしてもこれくらいは考える。

GPS機能がない輸入した特殊な携帯に、他人名義のチップをさしこみ、

探知することを不可能にした「無敵携帯」をつかつたり。

アメリカのデラウェア州に登記上の本社を設立し、

租税回避地にひらいた口座で、年利二十パーセントの金をうごかしたり。

汚れた金の洗浄がおわれば、貿易会社だの不動産投資会社だのIT企業だの、

オモテの仕事を立ち上げ、成功した青年実業家として社会にまぎれこんだり。

ここまで来ると、現実世界の闇の深さに気が遠くなるが、

ただ奇妙な心象が、胸の奥でモヤモヤとただよう。

邪悪な犯罪への怒りというより、生理的な不快感というか。

 

 

 

振り込め詐欺で検挙された容疑者の年齢構成は、

「詐欺師」という言葉の印象に反し、二十歳代が六十四パーセントと若く、

三十四歳以下で数えると八十三パーセントにおよぶ。

孝行息子のふりをして電話をかけるのだから、当然だが。

かつて振り込め詐欺に手を染めた、二十九歳の「タカハシ」はこう語る。

 

名簿には、実家の住所、電話番号なんかが載ってあるんで、

親の年齢も、やっぱ50代後半から60代後半ぐらいまでの年齢が

一番いいかなって思ってかけるんですよ。

まぁカネも持ってるし、年とると、判断能力もだんだん衰えてくるし。

 

不快感の根拠があきらかになる。

ボクだつて本当にカネに困れば、親に泣きつくだろう。

でもそれは恥づかしいことだ。

老いた親を養うのが子の義務なのだから、だれだつてそう感じる。

まして息子のふりをして、他人の親にカネをせびるなんて!

これほどの恥辱が他にあるのか?

二十代の甘えんぼ詐欺師にくらべれば、

春をひさぐ女の心でさえ、どれほど気高いかとおもう。

 

やっぱり親の心情からしても、息子に当てにされるっていうのは、

すごい嬉しいことだと思うんですよ。

だから本当に、お母さんにしか話をしたくなかったからって言う。

絶対誰にも言わないでねって念押しする。

 

そして、孤独な老人たち。

未成年を妊娠させたとか、会社のカネを横領したのがバレたとか、

息子かわいさのあまり、自分の貯金で臭いものに蓋をさせる。

悪行に正当な裁きをうけさせるのも、親の情けなのに。

でも、頼りにされるのがうれしくて。

人生の終着駅がちかづいた季節にあたりを見回すと、

自分たちが数十年をかけて築いた社会が、

強欲な犬畜生がのさばる醜い地獄だつたと気づき、申しわけなくて。

けふも巷では、愛に飢えた老若男女が、血走つた目でATMに通帳をさしこむ。





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(2009/10/03)
NHKスペシャル職業”詐欺”取材班

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