サジ加減 ― 国際親善試合・ニュージーランド戦
女子サッカー 国際親善試合 日本代表 対 ニュージーランド代表
結果:2-0 (1-0 1-0)
得点者
【日本】前半43分 宮間あや 後半13分 大野忍
会場:さいたま市駒場スタジアム
[現地観戦]
七月以来の駒場スタジアムだが、いまだに道順がわからない。
おぼえているのは、強制収容所にぶちこまれた屈辱だけ。
本太坂下の交差点を看板にしたがつて進んだら、とんでもない遠回りになつた。
敵側の観客をだまして消耗させ、試合を優位に運ぼうとたくらむ、
自治体をまきこんだ赤いクラブの陰謀にちがいない。
駒場への経路など世界の常識なのに、
知らないオマエがおかしいと勝ちほこる、赤い悪魔の高笑いがきこえる。
ふくらはぎに乳酸をためつつ到着。
「出島」でなくメインスタンドに腰をおろすが、むしろ居心地が悪い。
北朝鮮に亡命したら、こんな気分になるかもしれない。
この試合は、代表の新ユニフォームのお披露目でもある。
青がかなり深くなり、紺よりも濃くみえて違和感をおぼえる。
胸元のピンクの部分がひろくて、色白で細身の鮫島彩には似合つていた。
だれもが日焼けに悩む、女子サッカー選手にみえないでせう?
堀北真希にだつて、引けを取らない。
…ことにしておこう。
前日からふりつづけた雨は正午までにやんだが、
芝は水を大量にたくわえ、パス回しをむつかしくさせるだろう。
日本の中盤は左から、宮間、澤、宇津木、大野が水平線をえがく。
前線は安藤と北本。
ベレーザの太い幹に、レッズのフォワードを接ぎ木した陣容だ。
(宮間あやは、九年前までベレーザに所属)
ニュージーランドは、10番のアナリー・ロンゴを頂点にすえる菱形。
平坦な日本の中盤の組織は、左右にムラなく平衡をとりやすいが、
一方のホワイトダイヤモンドは負けじと、縦の間隙に起点をつくる。
難解な詰将棋をとく様な競り合いがつづく。
人口よりも羊の数がおほい島からきた女たちは、
みなプロレスラーみたいな体格で、陸上選手みたいに突進する。
大和撫子の花園は、ブルドーザーで根こそぎにされかかるが、
これまたベレーザの岩清水梓が、片手で金髪のレスラーを薙ぎ倒した。
国内リーグで、ボクの天使・岩渕真奈の足をひつぱりヤキモキさせた連中が、
制服を青にかえただけで、みちがえるほど活発な動きになる。
サッカーの摩訶不思議な錬金術だ。
前半43分。
左側面の宮間は、攻撃をつくれないので代えるべきと思つていたら、
ワンツーで中央をこじあけて得点。
宮間さん、スミマセン。
ことしもジェフの降格以外、あらゆる予想をはづした管理人です。
ハーフタイムがおわり、北本綾子にかわり永里優季が登場。
リーグ戦では、ベレーザを「勝ち点差11」でくだしたレッズだが、
駒場の人口比率では「3-6」で敗北(宮間を含まず)。
センターサークルで試合再開の笛をまつ大野と永里の、
ニコニコたのしげに会話する様子が、スクリーンに大写しになる。
さらに芝がかわいたのも影響してか、日本のパスがまわりはじめた。
カテゴリーをとわず、パス交換を楽しみだした日本代表が負けることはない。
澤穂希のパスをうけた大野忍が、後半13分に追加点をきめた。
前後半でサイドがかわり、はじめて宮間あやを近くでみて、
いまさらながらその力量を痛感する。
ボールをもたないときの動きに無駄がなく、演算能力の高さをみせつける。
そして地をはうパスの軌跡の、この上ないうつくしさ!
ぬれた芝は初速をたかめるが、減速が普段よりはげしい。
それを考量して宮間がころがしたボールを追いかけ、
左サイドバックの鮫島が八割五分の速度ではしると、
最後にふみだした左足が、ぴたりとゴールラインにかさなる。
魔法みたいだ。
男子では名波浩以降とだえた伝統藝能が、受け継がれていることに感動する。
オーナーが澤で、シェフが宮間。
そんな名店の御馳走を堪能した。
もし、パスの受け手が岩渕真奈ならどれほど美味になるか、
想像しただけで興奮するけれど、ないものねだりの客は野暮にちがいない。
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