世界 ― 「メアリー・ブレア展」

『イッツ・ア・スモールワールド』コンセプト・アート(一九六四年)

 

メアリー・ブレア展

 

会場:東京都現代美術館

 

 

 

おそるべき造形と色調の才。

予期せぬほどの歴史的重要性。

体内の酸素がきれて目まいがするほど、ため息をくりかえした。

メアリー・ブレアは、水彩画家として活動したあとの一九三九年、

ウォルト・ディズニー・スタジオにはいり、『シンデレラ』や『ピーターパン』など、

ディズニーを代表する映画の製作を、藝術性において牽引した人。

むつかしいことはともかく、いまから沢山画像をはりますので、

以下を御覧いただければ、その才幹は一目瞭然でせう。

 

 

 

『ストーミー・ビーチ』(一九三六年ごろ)

 

ロサンゼルスのシュイナード美術学院でまなんだメアリーは、

美術史上は「カリフォルニア水彩派」に属する画家だつた。

先入観かもしれないが、ドラマを感じさせる映画的な構成や、

人物のいきいきとした身のこなしが、どうしても目をひく。

しかし時代は大恐慌。

「藝術のための藝術」で食つてゆけるはづもなく、

メアリーは夫とともにアニメーション製作の現場にとびこむ。

 

『わんわん物語』(一九五五年公開)ストーリー・スケッチ

 

公開はおくれたが、スケッチがかかれたのは四十年ごろ。

右下の猫二匹の影がなす、明暗のあざやかさ。

銀世界のなか、急停止した左下の犬の足もとには粉雪がまう。

公表をまつたく意図しないただの下絵とは信じがたいし、

これをいまだに保管しているディズニー社にもあきれる。

やはり尋常な会社ではない。

 

『南米スケッチ/笛の男』(一九四一年)

 

『白雪姫』につづく『ピノキオ』や『ファンタジア』が大コケし、

会社は第二次世界大戦の影響もあつて、経営難におちいる。

尾羽うち枯れたウォルト・ディズニーは、政府の依頼で南米にとんだ。

アメリカ政府は、南米文化を紹介する映画をつくらせ、

南米各国が枢軸国側につくのを防ぎたかつたらしい。

ブラジルなどがどちらに味方しようと、戦争の勝敗がかわるわけもないが、

それは当時の政府や民間人のあづかり知らぬところ。

みな必死なのだ。

いづれにせよこの旅行は、メアリーの色彩に霊感をあたえた。

こぼれおちる様な深々たる緑が、以降の作品できわだつ。

 

 

 

『シンデレラ』(一九五〇年公開)コンセプト・アート

 

『ふしぎの国のアリス』(一九五一年公開)コンセプト・アート

 

『ピーター・パン』(一九五三年公開)コンセプト・アート

 

『ピーター・パン』コンセプト・アート

 

これらの作品につけたすべき評言などあるだろうか。

おのれの修行不足を痛感させられた次第。

ただし以上のグアッシュ画は、狭義の「作品」とはみなせない。

あくまで映画の体裁をととのえるための図案にすぎず、

この絵は、アニメーションでそのまま再現されてはいない。

むしろアニメーターたちは困惑しただろう。

たしかにすごい絵だけど、アニメにするのは無理ですよ!

それでもメアリーは、ボスのウォルト・ディズニーの支援のもと、

アニメーターを挑発する傑作を量産しながら、

子どもむけのアニメに、藝術家の魂をふきこんだ。

 

 

 

『ピーター・パン』公開の数日まえにディズニーを退社し、

メアリーは独立のデザイナーとなる。

 

 

一九六〇年代のバターの広告。

おしやまな女の子をかかせたら、ならぶものはいない。

 

『レモネード・ガール』(一九六〇年代)

 

戦争がおわり、ディズニーが世界を征服するなかで、

アリスやウェンディやティンカーベルが、巷を闊歩する時代となる。

そして一九六四年。

「ニューヨーク世界博覧会」のパビリオン制作をうけおつたウォルトは、

その意匠を、すでに退社したメアリーにまかせる。

『イッツ・ア・スモールワールド』。

世界中の工藝の色彩や模様を配した建物のまえで、

子どもたちが無邪気にたわむれる。

それはメアリーの夢を三次元化した記念碑だ。

 

 

 

そろそろ書くのにつかれたので、メデタシメデタシとゆきたいが、

真の藝術家の人生は、そう都合よくまとまらない。

展覧会でいうと「第五章」。

晩年の作品が、濃い影をなげかける。

 

『レ・シャ(猫たち)』(一九七八年)

 

いわゆるミクスト・メディアで、窓や顔、そして乳房まで木片で表現される。

どぎついピンク。

わかい女の肉体、それも性的な部分への露骨な執着。

醜悪といつてもよい。

「子どもをイイ展覧会に連れてこれてよかつたわ」と満足げなママも、

最後の部屋にくると言葉すくなだつた。

彼女の家庭問題やアルコールへの依存が、

作風の変化の原因とされているらしいが、どうだろう。

あくまでボクの想像だが、メアリーは自由をもとめたのではないか?

「小さな世界」から、外へ。

カワイイおばあちやんでいるなんて、つまらないもの。

 


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