猜疑心の十七世紀 ― 『カムイ外伝』

 

カムイ外伝

 

出演:松山ケンイチ 小雪 伊藤英明

監督:崔洋一

制作:日本 平成二十一年

[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]

 

 

 

すぐれた脚本家で、市川崑の妻だつた和田夏十は、

映画でナレーションをつかうのは「イイジイ」だといつた。

いかに語りにたよらず書くかが、腕のみせどころだと。

これほど有用な判定基準はほかにないので、

映画をみるときは、つねづね肝に銘じている。

「むかしむかし、あるところに」ではじまれば、

最初の一秒で、その作品は傑作でないとわかる!

さて、宮藤官九郎の脚本(崔洋一が共同執筆)による『カムイ外伝』は、

山崎努がおもおもしく、「ときは十七世紀」と説きおこす。

すみやかに評価を下方修正しました。

そして、この脚本家はバカだと断言したい。

江戸時代の日本を西暦でかぞえてどうするの。

キリストさんが生まれた年からの勘定だろ。

え、元号はわかりづらい?

世界史の授業ぢやあるまいし、一体いつごろなのか、

「ナントカ世紀」と言われてもおぼつかないよ。

「むかしむかし」の方がまだマシだ。

 

 

 

セリフから例をあげると、本作でくりかえされる文句に、

「すぎたる猜疑心は、身をほろぼす」というものがある。

ボクの電子辞書にはいつている『精選版 日本国語大辞典』は、

末広鉄腸『雪中梅』(明治十九年)から用例をひろう。

極力初出をさがしてくれる辞書なので、これを信頼するなら、

「猜疑心」は明治時代以降のことばだ。

えた集落にうまれた無学のカムイは、「猜疑」という熟語も知らないはず。

だから単に、「うたがい」と書けばよい。

スクリーンのすみに送電線がうつりこむのと同じで、

不調和なセリフを耳にすれば、だれでも興がそがれる。

サイギシン、このカタくて場違いな五音が、

場内でメールチェックするバカヤロウの様に、背景からうかびあがる。

クドカンさん、客をなめてますね。

脚本家と自称するなら、字引きくらいめくつてください。

 

『YOMIURI ONLINE』

 

あえて率直にいうと、顔をみるからにクドカン氏の胃袋は、

手ごわい男同士の命のやりとりや、

賤民の身分におかれた人間の権力に対する怒り、

なんて重厚なネタを消化できそうにない。

うかれたガキがウロチョロする話は、得手吉らしいけど。

 

 

 

なんだ、また短気な管理人が駄作にあたつて怒つてるのか、

とお思いのみなさん、ちがいます、この映画はすばらしいです。

 

 

個別の場面は、きびきびした力感とこまやかな情緒にあふれ、

ロケ地である沖縄の海岸風景のうつくしさにも、息をのむ。

ただ脚本があまりに杜撰で、後先の脈絡がないのが惜しい。

大後寿々花がきたない衣をだきしめ、

カムイの残り香をかぐ情景など、胸がじんと熱くなる。

なのに、いつのまにか慕情をこめる小道具が、

変な貝殻にとつてかわられ、その貝もわすれられる始末だ。

主役の松山ケンイチの芝居は、不気味なほど感情をおしころす。

このひと、身長は百八十センチもあるんだね。

猫背なのでちいさくみえる。

端正で綺麗な顔だちだが、それを鼻にかける風もない。

男は普通、おのれの体力知力風采などを誇示したがるのに。

かわつたひとだが、忍者役は性にあつてそう。

 

 

 

 

後半、ボクのすきな伊藤英明が出てくるあたりから、

語り口に緊張感がまじりはじめる。

マツケンとは一センチしかちがわないのに、

堂々たる偉丈夫と目にうつるのが不思議だ。

ふたりが視線をかわす一瞬、ぞくぞくするほどの色気がただよう。

そして最後の決闘は、もはやクドカンの出る幕ぢやない。

両腕を斬りおとされながら、たからかに哄笑する、

「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」準グランプリ受賞者。

人を人ともおもわぬ様な、剛愎さ。

そして砂浜を赤くそめながら、断末魔の苦しみにのたうつ。

みごたえある戦いだつた。


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