ミイラとりが ― 「ジョルジュ・ビゴー展」

画集『おはよ』(一八八三年)より

 

ジョルジュ・ビゴー展 碧眼の浮世絵師が斬る明治

 

会場:東京都写真美術館

 

 

 

さまざまな階層の読者を念頭におきながら、

運営している当ブログでございますが、

さすがに十歳以下のオコチャマはいらせられませんよね?

したがつて、読者のほぼ百パーセントが、

以下の風刺画をしつていることでせう。

 

「釣りの勝負」 『トバエ』第二次第一号(一八八七年)より

 

「朝鮮」をつろうとする「日本」と「清」のむこうで、

橋の上の「ロシア」が、糸をたらす好機をまつ。

二十二歳で来日。

陸軍士官学校で美術をおしえ高給を得たのち、

風刺漫画雑誌『トバエ』を創刊。

国際情勢や、政府高官、さらには市井にいきる人々を、

あまり好意的でない眼差しでかいたフランス人、ジョルジュ・ビゴー。

本展は来日前、帰仏後の未公開作品もそろえた、

かれの全貌を目の当たりにできる、実に貴重な機会だ。

 

 

 

東京の風俗を余すことなくつたえる、

「四大画集」が一番おもしろかつた。

トーキョーというより、エド。

浮世絵の様式は、現代人に無縁の視点によるから、

作品としては楽しいが、そこが「自分の町」には見えない。

そこでビゴーの出番。

西洋人なら、誰でもよいのではない。

ほろびゆく日本のたたずまいや習わしを、

夢中になつて記録する、底ぬけの好奇心がとうとい。

落語などの話藝や、『半七捕物帳』などの文藝に、

「江戸」と「東京」をむすぶ鎖がみえるのに似ている。

だから日本人は、三遊亭圓朝や岡本綺堂に対してと同じくらい、

ジョルジュ・ビゴーに感謝すべきだ。

自分がいま、「江戸=東京」にいるのだと気づく瞬間があり、

恵比寿ガーデンプレイスの片すみで鳥肌がたつた。

 

 

 

風刺の毒は、時代をくだると解毒剤がうしなわれ、

単にヒンシュクを買うだけの代物になることが。

 

 

これも教科書にのつてましたね。

舞踏会に出ようとするカップルが、鏡のなかで猿になる。

せつかく辺境に来たのに、愛すべき未開人がおのれの文化をすて、

西洋のサルマネをするのに我慢できなかつた。

まあ理解できるけど、猿はもう通用しないなあ。

そしてなにより西洋人、特に男にとつて、

「混浴」という風習は、天と地がいれかわるほどの衝撃だつた。

なんという野蛮な民族だ!

ケシカラン!

と鼻息をあらくし、我先にと銭湯にかよう。

ビゴーも例外でなく、膨大な数の混浴の情景をのこした。

どの民族がもつとも助平なのかしめす、うごかぬ証拠だ。

 

 

 

帰国後のビゴーは、新聞や雑誌の仕事で食べてゆけなくなり、

「エピナール版画」とよばれる、チラシの挿絵をかいた。

いうまでもなく初見で、どれも興味ぶかい版画だが、

あれほど目ざとい風俗の観察者、その張本人が、

風俗の一部になつたように思え、なんだか悲しくなつた。


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