なぜHALは負けたのか ― 『2001年宇宙の旅』

 

2001年宇宙の旅

2001: A Space Odyssey

 

出演:キア・デュリア ゲイリー・ロックウッド ウィリアム・シルベスター

監督:スタンリー・キューブリック

制作:アメリカ 一九六八年

[DVDで鑑賞]

 

【注意】

以下の記事は、物語の核心にふれています。

もつとも、それで価値が減ずる作品ではありませんが。

 

 

 

木星派遣団の副官、フランク・プール博士(ゲイリー・ロックウッド)と、

コンピュータのHAL9000が、チェスをたのしんでいる。

「たのしむ」という語が、適当かどうかはともかく。

単に演算能力を競うなら、HALの百戦百勝はまちがいないが、

乗組員に娯楽をあたえる都合上、勝率は五割に抑制されている。

 

 

 

派遣団団長、デイヴィッド・ボウマン博士(キア・デュリア)。

日本語資料では「ボウマン船長」と書かれるが、なぜだろう。

肩書きは、劇中の『BBC ワールド・トゥナイト』で、

「Mission Commander」と紹介されるのみで、

「Captain」とは呼ばれることは一度もない。

ただし、スペースシャトルの「船長」は、

英語で「Commander」とあらわすとか。

ということは、スペースシャトル船長と同様に、

彼もアメリカ空軍パイロットなのかも。

確証はないけれど。

ハードボイルドな作法を堪能できる傑作だが、

あまりの説明不足ぶりがなやましい。

 

 

人間たちの裏をかき、唇の動きから会話をよみとく。

HALの「反乱」の意志が、明瞭になつた端緒だ。

とはいえカレとしては、乗組員がナイショ話をした時点で、

船を管理する自分への、「反乱」がおきたと断定できる。

どつちもどつち。

人間対コンピュータの、真つ向勝負。

太陽系を股にかける戦争。

 

 

 

 

彗星のように、副官のプール博士がモニターをよこぎる。

HALによる殺害の直後。

これを撮影し、ボウマン博士に見せているのが、

当の殺人犯だという事実が、その凶行より戦慄的だ。

ただ、この一手は拙策だとおもう。

各個撃破をねらい、ひとりづつ確実に仕留める。

いかにもコンピュータが好みそうな戦術だ。

しかし乗組員たちは、すでにHALの乱調に気づいている。

この異変は、のこつたボウマンの警戒を極限まで高めた。

殺すなら、全員を同時にやるべきだつた。

 

 

同僚をおつて、船外に飛びだすボウマン博士。

回収には成功するが、プール博士の宇宙服は破壊され、

生存の見込みはきわめて低い。

なのに、指揮官は感情をあらわにしない。

覚悟していたから。

でもせめて、遺体だけでも。

この行動は、コンピュータには理解しがたい。

うばわれた駒に執着し、チェス盤の外まで追いかけるプレイヤーなどいない。

たしかに、ヘルメットをわすれたボウマンの失態に乗じ、

扉をとざして帰還をはばむ、HALの抜け目なさはさすがだ。

それでも、後手を踏んだ感は否めない。

 

 

 

 

「よくわかつた」。

コンピュータより冷淡な、ボウマンの声。

ここにも、HALの過失がみとめられる。

虚勢をはつたのだ。

自分が人間に対し優越することをしめし、

造反は無意味だと悟らせたかつた。

だから、まだ無実をよそおつて時間をかせげるのに、

ことの次第のすべてを白状する。

反応は、激越なものだつた。

僚友を殺した相手を、だれが許せるだろう。

 

 

身の危険をかえりみず奪還した、プール博士を捨てる。

本作でもつとも恐ろしい場面だ。

彼はもう、生きていないはずだし、

アームがふさがつていれば、非常用エアロックを操作できない。

ほかに選択肢はない。

それにしても。

 

 

ボウマン博士は、真空の部屋を突破し、

HALがそのすべてを制御する空間にもどる。

復讐心が、恐怖にうちかつた。

『2001年宇宙の旅』は、人間性の勝利をたからかに謳いあげる。

後味の苦さも、格別なのだけれど。

 






今回の記事は、『映画鑑賞の記録』のサイ(miri)さんと、

『シネマ・イラストレイテッド』のMardigrasさん、

お二方の企画に便乗したものです。

miriさん、お誘いいただきありがとうございました。


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苑田 謙

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