沢音千尋/山本悦子『夜間中学へようこそ』
夜間中学へようこそ
作画:沢音千尋
原作:山本悦子
発行:双葉社 2020年
レーベル:アクションコミックス
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中学校入学を間近にひかえた主人公「優菜」は、
76歳の祖母も中学に通い始めると聞いてビックリする。
小学校レベルの学力を身に着けられなかった人々に教育を提供する、
山田洋次の映画『学校』シリーズで知られる「夜間中学」という制度だ。
実は祖母は読み書きができず、息子にさえそれを隠していた。
戦中戦後の混乱期に学校に通えなかった子供は少なくなく、
その救済措置として夜間中学はつくられ、
現在は不登校だった生徒や外国人も受け入れている。
優菜は、足を怪我した祖母に付き添って毎日顔を出し、
さまざまな背景をもった人々と交流してゆく。
優菜が通う昼間の中学との違いは、生徒が主体的に学習するところ。
その意味では、学校の本来あるべき姿とも言える。
しかし例外もいて、3つ年上の「和真」は言動がやたら攻撃的で、
我慢できなくなった優菜は授業中に怒りをぶつける。
おもわず口走った一言は、触れてはいけないトラウマを抉ってしまった。
「なぜそうなのか」を深く考えず、安易に「異物」を排除しがちな、
日本社会の風潮に批判的な光をあてる、本作の山場だ。
イケメンのフィリピン人「カルロス」との関係など、
ほのかな恋の芽生えみたいなエピソードもある。
『しんぶん赤旗』日曜版で連載された本作は、最先端の娯楽ではないが、
僕たちの知らない、でも知っておくべき世界を教えてくれる、
まじめで心温まる作品となっている。
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