仲谷鳰『優しくなりたい』

 

 

優しくなりたい

(短篇集『さよならオルタ』所収)

 

作者:仲谷鳰

発行:KADOKAWA 2020年

レーベル:電撃コミックスNEXT

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短篇集巻末の『優しくなりたい』は、唯一の描き下ろし作品で、

なおかつ作者への認識を改めさせられた出来なので紹介したい。

 

学ランの少年が、別棟の屋上から窓を通って校舎に戻った、

セーラー服の少女と鉢合わせするところから物語は始まる。

 

 

 

 

メガネの少女は封鎖された屋上に用事があった。

立入禁止なのは、ある女子生徒が飛び降り自殺したから。

なぜ少女が校則を破るのか知りたい少年も、足を踏み入れる。

 

学校の屋上が舞台、登場人物はふたり、短篇らしいミニマルな構成だが、

ツカミからメインへの空間と時間の遷移がみごとだ。

屋上の解放感を印象づける一方で、金網をシンボリックに描写し、

ストレスフルな思春期の男女の心象風景を紙面に焼きつける。

 

 

 

 

少女は屋上で、折り紙が得意だった女子生徒を偲んで、

折り鶴をマッチで燃やし、自己流の供養をおこなっていた。

その女子生徒とはほとんど会話したことがなく、親しくなかったが、

だからこそ他人には理解しがたい動揺を、ひとりで静める必要があった。

 

目を瞠るほどうつくしいシーンだ。

どこにでもありそうなエピソードに織り込まれたエモーションが、

読者の心に痛切に響いてくる。

また、出世作『やがて君になる』の男キャラが全員デクノボウだったので、

仲谷は男を描けない作家かと思ってたが、本作の少年はリアルだ。

 

 

 

 

作者によるコメントに、「私も薄情な人間なので」とある。

情感に乏しい仲谷の作風について、当ブログはくどくど言及してきた。

それは弱みでも強みでもある。

ハダカの自分をどう装飾してセルフプロデュースするかがカギだが、

天才的な表現力を持つわりに、見せ方が中途半端なのが謎だった。

冷たい雰囲気が好きなら徹底的にやればいいのにと。

 

疑問は氷解した。

仲谷は薄情な自分を変えたかったのだ。

『やが君』の中庸性は、作者の葛藤の表れだった。

 

 

 

 

こちらの表題作『さよならオルタ』は、7年前に同人誌で発表された。

短篇集収録作品のテーマは「勇者もの」とか「VTuber」とか、

けっこう流行に影響されやすい作家なんだなと思った。

仲谷にとっては「百合」も、とりえあず乗ってみた船なのだろう。

 

そこから降りた今、お定まりの航路から外れた作者は、

本来持っていた無垢で強靭な生命力を発見しつつある様だ。





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