笹生那実『薔薇はシュラバで生まれる』

 

 

薔薇はシュラバで生まれる 70年代少女漫画アシスタント奮闘記

 

作者:笹生那実

発行:イースト・プレス 2020年

[ためし読みはこちら

 

 

 

「黄金時代」とも言われる、70年代の少女漫画の創作現場を、

美内すずえなどのアシスタントを務めた経験にもとづいて語る作品。

 

毎月ファンレターを送るほど熱心な美内ファンだった作者は、

はじめて会ったときは緊張しすぎて、執筆を妨碍してしまう。

 

 

 

 

作者は高3でデビューするが、並行してアシスタント業も続ける。

大阪出身の美内すずえは話がうまく、特に怪談が得意。

こんこんと湧き出るイマジネーションで、アシスタントたちを震え上がらせる。

 

ちなみに徹夜作業中の眠気覚ましには、おしゃべりが一番有効らしい。

 

 

 

 

人気作家たちの容貌を、リアルな特徴をとらえた似顔絵でなく、

それぞれの絵柄を模写して表現するのがおもしろい。

「作者=登場人物」という観点にもとづいて語られるエピソードは、

それ自体が作家論かつ作品論となっている。

 

崇高な雰囲気で描写される山岸凉子の話は、本作の山場のひとつ。

 

 

 

 

三原順は『はみだしっ子』の4人みたく、コロコロ表情を変える。

冷静だったり、無邪気だったり、意地悪だったり。

 

42歳で早逝したのは、同期デビューの作者にとって痛恨事と思われるが、

あえてそれは描かず、青春の一コマとしてのみ提示する姿勢が胸を打つ。

 

 

 

 

作者は漫画家としてはあまり成功しなかったらしい。

本作を読んだ限りで言うと、アシ作業でのミスをくよくよ気に病んだり、

先生の言動にいちいち感心したり、作家向きの性格ではなかった様だ。

「たしかに先生はすごいけど、私ならもっといいものが描ける!」

というエゴが、生存競争で勝ち抜くには必要と思われる。

 

でも作者が60代になった今では、そんなことは小さな問題で、

喜びも悔しさもすべてが、美しく愛おしい思い出となっているのだろう。





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苑田 謙

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