冬目景『空電ノイズの姫君』3巻
空電ノイズの姫君
作者:冬目景
掲載誌:『月刊バーズ』(幻冬舎)2016年-
単行本:バーズコミックス
『空電ノイズの姫君』は幸福な作品だとおもう。
デビューから27年のベテラン作家が、たのしんで描いてるのがつたわる。
絵が「歌って」いる。
よくもわるくも淡々とした作風の冬目景が、
ロックを題材にして心機一転するとは意外だ。
まあ、代表作のタイトルが『イエスタデイをうたって』だし、
彼女の内面でずっとロックは奏でられていたのだろう。
3巻は、初ライブが大失敗におわったマオたちが、
打ちひしがれて迷いの日々をおくる様子をえがく。
なにげない会話がいい。
文字がやたら多く、特別に見せ方を工夫してるわけでもないが、
女の子の表情が時間と空間の感覚をかもしだす。
これぞ冬目景ワールドだ。
「才能とはなにか」について熱く議論する。
冬目は美大出身で、どちらかと言えばマニアックな作風で、
作品発表のペースは途轍もなく悠長でありながら、
傍から見ると浮き沈みのない安定したキャリアを築いている。
「売れないアーティストの鬱屈」なんてとっくに忘れてるはずだが、
それでもけっこう読ませるのが不思議だ。
『空電ノイズの姫君』は、幻冬舎から講談社に掲載誌が変わった。
あとがきによると『コミックバーズ』休刊に際し、ウェブ連載を打診されたが、
冬目は紙媒体へのこだわりを訴え、それが認められたらしい。
おだやかな作風の背後にある、アーティスト魂を感じさせるエピソードだ。
- 関連記事