『殲滅のシンデレラ』 第11章「油小路通」


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 アヤは京都駅にちかい下京区の、油小路通に面した旅館「眠れる森」へやってきた。市内の鉄道はすべて運行停止。自動車の通行もきびしく規制されている。たまにサイレンを鳴らしたパトカーが往来するだけで、繁華街なのに気味悪いほど静かだ。

 イオリと話し合い、アヤはもともと宿泊する予定の旅館にきた。いま潜伏地をもとめて動き回れば、かえって怪しまれる。女子高生を隠すなら、女子高生のなかだ。

 警察の捜索はさほど怖くない。治安当局はガタガタだった。行政機関をつかさどる総理大臣は死亡した。陰謀をめぐらす重鎮たちは雲隠れ。指揮系統は錯綜し、情報は共有されてない。

 アヤとイオリは、みごとな庭木をそなえた日本旅館にチェックインする。イオリはズボンに着替えてある。ロビーでイオリと別れたアヤは、ユウキと相部屋になる三階のドアをノックする。

 ユウキがドアをあける。いぶかしげに質問してくるが、アヤは無視して浴室へはいる。浴槽に冷水を張る。昨晩同様に高熱を発していた。服を脱ぐが、まともに指がうごかない。下着をつけたまま浴槽に倒れこむ。水は心臓を止まらせるほど冷たい。でも、こうしないと焼け死んでしまう。

 アヤが長いうめき声を漏らす。

「うぅ……ううぅ」

 浴室に飛びこんできたユウキが叫ぶ。

「おい! なにやってんだ!」

「こおり……」

「あぁ?」

「氷をもってきて……たくさん」

「どうしたんだよ、いったい」

「もうだめ」

 失神したアヤは冷水のなかで溺れる。




 バスローブを羽織ったアヤが、ベッドに仰向けに横たわる。額に濡れタオルをのせている。まだ熱っぽく頭痛もするが、ベッドサイドテーブルにある源氏物語を読みはじめる。じっとしてられない性格なのだ。ちょうど「若菜」の巻で、光源氏にいじめられた柏木が病に伏せるのがおかしかった。

 些細なパワハラで心を痛め、ころっと死んでしまうのだから、平安時代の男はずいぶん柔弱だ。

 ユウキが濡れタオルを交換する。ついでにアヤの読んでいる本を手にとり、パラパラめくる。汚物に触れたかの様にベッドへ投げつける。

 顔をしかめてユウキが叫ぶ。

「なんだこりゃ、古文じゃねえか!」

「ロビーに置いてあったから借りたの。暇つぶしになると思って」

「旅先でもお勉強か。どんだけ優等生なんだ」

「そうでもないわよ。普通に源氏が好きなだけ」

「全然普通じゃねえって」

 アヤは枕に頭を沈め、天井をみつめる。

 京都で源氏物語を読むのは至上のよろこびだけど、あまりゆっくりできなくて残念。

 ユウキが続ける。「具合はどうよ」

「だいぶよくなった」

「喉渇いてないか」

「大丈夫。ありがとう、介抱してくれて」

「こんなのあたりまえだろ」

 ユウキが事情を追求しないでくれるのが嬉しかった。騒動にアヤが関与していると、さすがのユウキも察してるはずだ。でもだからこそ、なにも聞かない。聞けばアヤを困難な立場へ追いやるから。

 性格がまるでちがうユウキと親友になれた理由を、アヤはわかった気がする。ユウキは心がひろく、なんでも受けいれられる。それは自分にない美点だ。

 隣のベッドに寝転んだユウキが尋ねる。

「で、水瀬とはうまくいったか?」

「うん。仲良くなれた」

「マジか! やるじゃん!」

「ユウキが想像する様な関係じゃないけどね。あくまでお友達よ」

 イオリがはたして「友達」の定義にあてはまるかどうか。まさか女装癖に触れる訳にいかないので、説明がむつかしい。

「いやいやいや。それはない。あたしには正直に言えよ」

「嘘なんてつかないわ」

 アヤはまた嘘をついた。

「あたしから見てもお似合いだとおもうぞ」

「恋人をつくる気はないの。いまは」

「家出するからか?」

「まあ、そうね」

「関係ないだろ。別にいますぐ家出するわけじゃないんだし」

 アヤは皮肉な微笑をうかべる。松濤の家には、もう二度と帰るつもりはない。ワイズを斃したら、このまま京都に定住する。

「本当にそういうんじゃないの。だいたいイオリの方が、私以上に恋愛に興味なさそう」

 がばと身をおこし、ユウキが叫ぶ。

「もう名前で呼んでんの!? ガードの堅いお前が!? 信じらんねえ!」

 アヤは手で口許をかくす。イオリには戦友としての気安さがあり、つい口がすべった。

「名前で呼んでるからって、別に」

「告白したのか?」

「だからちがうと言ってるでしょ」

「自分から告白しろよ。あいつボンヤリしてるから、こっちからアタックしないと。水瀬のこと、嫌いじゃないだろ?」

「嫌いじゃないから付き合うって、まちがってる」

「まちがってねえよ」

「恋人同士というのは、もっとこう、おたがいを高め合う様な……」

 ユウキの投げた枕が顔面に命中し、アヤの空疎な演説が中断された。

「お前はヘリクツばっかりだな!」

「うるさいなあ。隣室に迷惑よ」

「お前ってモテる様で、そうでもないだろ。男から告られたことあるか?」

「……ない」

「壁をつくるから、けっきょく男は逃げてく。あたしはブスだけど……」

「ユウキはブスじゃない。愛嬌のある顔だわ」

「フォローになってねえよ。まあいいや。あたしはこんな顔だけど、何度も告られたことあるぜ」

「すがすがしい自慢ね」

「だって恋愛って楽しいもん。幸せになれるし、気持ちよくなれる。すぐ飽きちゃうけどさ。そしたら次の相手を見つけりゃいいし」

「価値観のちがいを感じるわ」

「一生処女でいいのか?」

「そうは言ってない」

「なら水瀬に告白しろ。いま、ここで。内線電話であいつを呼び出してやる」

「余計なことはやめて」

 ユウキはベッドサイドテーブルの電話へ手をのばす。ちらりとアヤの反応を観察する。口を尖らせてるが、止めようとはしない。

 まったく、素直じゃないやつだ。

 トゥルルルル。

 着信音が鳴った。ユウキは受話器をとる。フロントからの電話だった。

 アヤの父親である佐倉惣吾が、フロントに来ているという。ロビーまで下りてこいと、惣吾はアヤにもとめている。




 庭園のみえるラウンジで、スーツ姿の惣吾がコーヒーを飲んでいた。制服に着替えたアヤは、むかいのソファに座る。

 安堵のため息をつき、惣吾が言う。

「とりあえず無事だったみたいだな」

「うん」

「四条駅で神経ガスが散布されたらしい。ちかづいてないか」

「大丈夫」

 勿論嘘だ。なにせアヤが実行犯の片割れだ。

「俺は陸自の輸送ヘリで京都にきた。桂駐屯地にとまっている。お前はそれに乗って東京へ帰れ」

「公私混同と批判されるよ」

「知ったことか。家族すら守れないで国防ができるか。お前がそんなことを気にするな」

「わかった」

 アヤは心にもない返事をした。自宅には帰らないと決めている。この場をやりすごせばいい。

「巻きこまれて怖かったろう」

「そりゃ、すこしは。お父さんこそ、よくきたね。わざわざ防衛大臣が乗りこむ必要はないんじゃない」

 あたりを見回し、惣吾が小声で言う。

「ここだけの話だが、官邸近辺がおかしくなってるんだ。閣僚の何人かが忽然と消えた。わけがわからん。首相とも連絡がとれない。しょうがないから、俺が現地で指揮することになった」

「貧乏くじだね」

「クウェートでの出来事をおもいだすよ」

「なにそれ」

「お前には言ってなかったか」

 ウェイトレスが、アヤの分のコーヒーをテーブルにおく。アヤは一口のむ。

 惣吾が続ける。「俺がむかし三菱商事に勤めてたのは知ってるな」

「うん」

「大学を出てすぐ、エネルギー関連の仕事でクウェートへ赴任した。そこである事件がおきた」

「ああ、イラクのクウェート侵攻」

「そうだ。イラク軍はたった一日で全土を制圧した。上司は逃げ出すし、大混乱さ。なぜか俺が、現地の日本人社会のまとめ役になった」

「いまと同じだね」

「あとで外務省から感謝されたよ。政界とのつながりもできた」

 惣吾はビールを注文する。酒癖が悪い父の飲酒にいい思い出はないが、アヤは不安をおぼえない。自分を心配し、助けに来てくれたのが嬉しかった。抱きついて甘えたい気持ちだった。あんなに父のことが嫌いだったのに。

「俺は」惣吾がつぶやく。「あのまま商社マンでいた方が幸せだったかもしれない」

「政治家は向いてない?」

「サラリーマン生活は気楽だった。がむしゃらに働くだけでよかった」

「うるさい野党やマスコミがいないもんね」

「ふふ。よくわかってるな」

 惣吾はグラスを空にし、二杯めを注文する。上機嫌で続ける。

「京都へ来るのはひさしぶりだ。前は家族旅行で毎年来てたのにな」

「最後に来たのは三年前だね」

「ああ、そうか。裕貴がオーストラリアに留学してから、家族で旅行してなかったな」

「お父さんも入閣して忙しくなったもんね」

「……アヤ、すまなかった」

「急にどうしたの」

「お前が家出を計画していたことについてだ。全面的に俺が悪い。それを謝りにきた」

 惣吾は両手をテーブルにつき、頭を下げる。頭頂部の髪が薄くなっており、年齢を感じる。

「やめてよ。お父さんらしくない」

「俺は短気な人間だ。自分でもわかってる。秘書にパワハラで訴えられたこともある。思いどおりにならないとカッとなるんだ」

「かもね」

「バカな秘書が怒鳴られて、転職するのはまだいい。本人のためだし、日本のためでもある。でも子供にそれをするのは間違いだ。逃げ場がないからだ」

「…………」

「お前みたいにマジメな娘が家出をかんがえるなんて、相当悩んだ結果だろう。相当苦しんだろう。本当に申しわけないことをした」

 惣吾は涙をうかべている。

 アヤは両手を握りしめる。黒い爪が手のひらへ食いこむ。

 やめてくれ。

 決心を鈍らせるのは、やめてくれ。

 いつもの様にアヤは嘘をつく。

「私は家出なんてしないよ。だまって資格取ったりしたのは事実だけど。羽多野さんが、あることないこと言っただけだよ」

「羽多野を永田町へちかづけたのも俺の責任だ。今回のテロはヤツが糸を引いてるらしい。あれほどの悪党とは夢にも思わなかった。俺に人を見る目がなかった。万死に値する罪だ」

「お父さん、私……」

「なにも言うな。若い娘をたぶらかしてテロをおこすなど、鬼畜の所業だ。刺し違えてでも、俺がヤツを止める」

 惣吾はまばたきせずにアヤをみつめる。

 すべて知ってるらしい。

 テーブルの下で、アヤの右手がそろばんの動きをしている。

 だれがバラしたんだ。

 羽多野自身はありえない。東山先生もちがう。

 ひとりだけいる。私のことを知っていて、それをお父さんに教える動機のある人間が。

「ユウキがしゃべったんだね」

「……お前に隠しごとはできないな」

「ひどい。親友なのに」

「善意でやったことだ。恨むのは筋違いだ」

 ユウキの考えはわかる。家族思いのユウキは、アヤの家出に反対していた。お節介にも、父娘の関係修復の役目を買って出たのだ。タイミングは新幹線で京都駅に着いたときか。

 ひょっとしたら、昨晩の記憶をうしなったというのも演技かもしれない。

 惣吾は二杯めのビールを飲み干す。いつもなら見苦しい酔態をみせるころだ。しかし今日はおだやかな微笑をたやさない。

「この先どうなるかわからんが、もし俺が無事だったら……」

「縁起でもないこと言わないで」

「ひとり暮らしをしていい。お前なら問題ないだろう。それもいい経験だ」

「別に私は」

「もうひとつ提案がある。アヤ、よければ俺の秘書にならないか」

「えっ」

「どちらかと言えば俺は世襲に反対だが、お前以上に後継者にふさわしい人間はいない」

「なに言ってるの。佐倉家の家訓では、女は跡継ぎになれない」

「くだらん!」

 酔った勢いで惣吾は叫んだ。アヤがウェイトレスに目配せすると、水のはいったグラスがはこばれる。

 グラスを傾け、惣吾が続ける。

「なにが家訓だ。優秀な人間が政治家になって悪いことがあるか」

「お母さんやおじいちゃんが反対するよ」

「どうしようもないやつらだ。俺は日本のために言ってるんだ。連中のことは心配しないでいい」

「でも、私が政治家になるなんて」

「お前は頭がいい。だれもが認めるだろう。だがそれだけじゃない。お前には品がある。俺みたいに感情的にならない。やはり血筋なのか」

「そんな。褒めすぎだよ」

「いや、裕貴がああいうボンクラだから、血筋では説明がつかんな。持って生まれたお前の長所だ」

 アヤの頬が濡れている。涙がとまらない。

 生まれてからずっと求めていたものを、いま手にいれた。

 父からの愛を。

 もはや京都への攻撃とか、ワイズ大統領の暗殺とか、どうでもよかった。そんなものはほかの人間にまかせればいい。

 私はこの愛情にこたえなきゃいけない。そうでなければ、この世に生をうけた意味がない。




 親子水入らずの会話を、轟音と震動が妨碍した。アヤが十一歳のとき経験した東日本大震災の、何倍もの揺れだ。人間をふくめた、ロビーのあらゆるものが転倒する。ソファに座っていたアヤと惣吾さえ、床に転がる。

 彼らは知る由もないが、アメリカ海軍の駆逐艦から発射された巡航ミサイルが、旅館の隣にある総合病院に命中した。核弾頭は搭載されてない。トマホークの平均誤差半径は十メートルだから、旅館に直撃しなかっただけ幸運だ。

 しばらく意識をうしなっていたアヤが、我に返る。ロビー周辺は非常ベルが鳴り響くが、アヤには聞こえない。内耳へのダメージで一時的な難聴となっていた。フロア全体が停電している。爆煙にとざされ、窓からの光もとぼしい。

 立ち上がり、アヤが叫ぶ。

「お父さん、どこ!? 大丈夫!?」

 返事はない。あっても聞こえない。朦朧とするなか、這って周囲を手探りする。だれもいない。

 エントランスから銃声がとどく。おそらく自動小銃の連射だ。かすかに聞き取れるだけだが。街路で銃撃戦がおきている。

 アヤはガラスの靴で絨毯を蹴り、油小路通へ飛びだす。新選組を脱退した伊東甲子太郎らが、一八六七年に内部抗争で粛清された舞台でもある。

 外へ出たアヤは、我が目を疑う。そこはイラクやシリアとみまがう戦場だった。五階建ての総合病院が崩壊し、さかんに炎上している。紅梅学院のおなじ学年の少女が、鄙びた通りをよろよろと歩く。アヤの眼前を左へとおりすぎる。片腕がない。迷彩戦闘服をきた海兵隊員たちが、M16の一斉射撃をあびせる。華奢な少女は、全身を穴だらけにして死んだ。ほかにも一般市民が虐殺されてゆく。特に制服の少女が狙われている。

 つまり、ターゲットはアヤだ。

 おなじみの兵員輸送車ハンヴィーが、交差点付近にとまっている。M2重機関銃の掃射がはじまる。引越し業者のトラックが、五十口径弾でエンジンを撃ち抜かれ、通りの右奥で燃え上がる。

 アヤは気配を感じて空を見上げる。輸送ヘリのブラックホークが旋回している。搭乗員がミニガンを散発的に発砲する。

 もはやアヤに抵抗する気はない。やるだけのことはやった。こんな戦争ごっこには付き合えない。

 やりたい人間がやればいい。

 アヤは両手をあげ、降伏の意思表示をする。一ブロックむこうにいる海兵隊員と目があう。二十歳くらいの白人だ。海兵隊員はM16の照準をさだめたまま近寄る。

 シュパッ!

 海兵隊員は、そばかすの残る頬を撃たれた。

「スナイパー!」

 ほかの兵士たちは口々に叫び、散開する。自動車や電信柱などを盾にして隠れる。しかし高所から放たれた銃弾は、手足や骨盤など、装備に守られてない部位を精確に射抜いてゆく。

 トラックからのぼる火焔のむこうから、色とりどりの着物をきた六人の女があらわれる。ミニスカートにしたステージ衣装だ。アヤはきょう、彼女たちを生で見たばかりだ。

 ご当地アイドルの京娘セブン。

 京娘セブンは全員、アサルトライフルのHK416を構えている。ステージ上とおなじく息のあった動きで、海兵隊員を圧倒する。

 最後尾にいた薄紫の衣装の少女は、肩に長い筒をのせている。最年少で一番小柄な、日高リサだ。まだ中学一年生。肩にあるのは防空ミサイルシステムのスティンガーだ。狙われてるのに気づいたブラックホークが、あわてて飛び去る。

 せまい路地から、海兵隊は一掃された。

 椿をあしらった赤い衣装の女が立ち止まる。リーダーの花澤カオリだ。HKを背中にまわし、アヤを抱きしめる。顔の大半を占める大きな瞳から、涙がこぼれる。人気絶頂のアイドルの泣く姿は、さすがに絵になる。

 震え声でカオリが言う。

「ありがとう」

「なに」アヤが尋ねる。「どういうこと」

「あなたが佐倉アヤさんよね。噂は聞いてる。ひとことお礼が言いたかったの」

「状況がつかめない」

「ごめんね。自己紹介してなかった。私は花澤カオリです」

「京娘セブンのリーダー。それは知ってる」

「私たちはデミ・ソリストなの。シャドウはつかえないけど、宝具の力で戦う。新幹線のトンネルを爆破したのは私」

 カオリは愛おしげにHKを撫でる。HKがぼうっと青白く発光する。尋常な武器ではなさそうだ。

 パルスプラザでのライブに、カオリは不在だった。破壊工作のため別行動してたなら、辻褄はあう。

「それでね」カオリが続ける。「東京の女の子が命懸けで頑張ってると知って、私うれしくて」

「あなたたちこそアイドルなのに、なぜこんな危険な真似を」

 向かいのマンションの玄関から、山吹色の衣装の女があらわれる。髪は毛先をたてたベリーショート。減音器をつけたスナイパーライフルのレミントンMSRを抱えている。

「紹介するね」カオリが言う。「メンバーの喜多村エイコ。百発百中の狙撃手なんだ」

 エイコが言う。「大袈裟だな」

「そんなことない。エイコちゃんはすごいよ」

「ただのチートさ。私は宝具に誓いをたてた。一発でも外したら、その場で命を絶つと」

 メンバーの六人は、カオリのうしろで横並びになる。それぞれ手をつなぎ、腕をくみ、肩を抱いている。みな表情がキラキラかがやく。

「私たちは全員」カオリが言う。「この町で生まれ育った。戦うのは当然なんだ。たとえ傷つき斃れるとしても」

 アヤは視線を逸らす。カオリのまっすぐな瞳がまぶしすぎる。絆の強さがうらやましい。

 学校ではつねにトップの成績で、数えきれないほどの習い事もこなしてきたアヤだが、そのすべてが個人種目だった。真剣に団体種目に打ちこんだ経験がない。

 カオリはアヤの両手を、自分の手で包む。はげます様に明るい口調で言う。

「桂駐屯地へ向かって。羽多野さんがそこにいる」

「なんで民間人が自衛隊の施設に」

「さあ。あの人のことだから、うまく取り入ったんでしょう。マリーン・ワンが不時着した場所をつかんだらしいよ」

 アヤはうつむき、おのれの手をみつめる。

 正規軍との交戦は自殺行為だ。上空から銃砲の雨が降り注ぐ戦場では、ソリストの力は役立たない。それになにより、父が望む自分になりたい。

 帰りたい。我が家へ。

「カオリさん、私はもう……」

「板挟み状態なのは知ってる。でもアヤちゃんは駐屯地へ行かなきゃいけない。お父さんもそう言ったでしょう」

「正直怖いんです」

「アヤちゃんは勇敢に戦った。ここで降りたとしても、だれもあなたを責められない。でも、どちらの道をゆくにしても、自分で切り開かなきゃ」

「いったいどうしたらいいのか」

「正解はないわ。私たち七人も、それぞれが心を引き裂かれてる。ただ、仲間を裏切れないという思いだけは、共通しているの」




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苑田 謙

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