長代ルージュ『イヴとイヴ』
イヴとイヴ
作者:長代ルージュ
発行:一迅社 2018年
レーベル:百合姫コミックス
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「百合×SF」の相性をうらなう試金石となりうる短篇集だ。
たとえば、冒頭の『奇跡の好きを遺したい』で少女たちは、
自分たち以外の人類が絶滅した世界をさまよう。
つくみず『少女終末旅行』など、同工異曲の作品はあるが、
はげしい性愛をえがく点で、本作は一歩ふみこんでいる。
少女たちは堂々と、少女たちを生み、そだててゆく。
ディストピアという名のユートピア。
百合には、頭でっかちな側面がある。
荒唐無稽なテーマをもっともらしく表現する努力は、見方によっては滑稽だ。
タイムマシンや透明人間の話みたいに。
後世の文学史家は、百合をSFの一ジャンルとみなすかもしれない。
『永遠一号二号はイヴとイヴ』。
それぞれウェディングドレスを着たふたりは、これから手術をうける。
自分たちの脳をとりだし、人工衛星に搭載する。
ふたりの愛を永遠のものとするため。
百合の定義についてここでは触れないが、
ジャンル全体の傾向として、「男性性に対する低い評価」をあげられる。
男の肉欲は利己的で醜く、女の愛は純粋に精神的でうつくしい。
それを極限まで追究すると、この「精神的な愛」へゆきつく。
百合の歴史において語り継がれるだろう描写だ。
本短篇集は、「地に足のついた百合」も用意されている。
心と心がぶつかり、きしみ、すれちがうドラマを、全身全霊であじわおう。
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