小沢一郎、ホンモノの言葉

「Konu Town」 (m-louis)

 

 

 

平成四年。

金丸信の議員辞職をうけての後継あらそいで、

当時は自由民主党所属だつた、

小沢一郎と梶山静六のあいだに内紛がおきた。

俗にいう「一六戦争」。

そのとき小沢は、「政治改革」の理念をかかげ、

「改革派」対「守旧派」の対立を演出する。

 

スローガンを打ち出すのは先手必勝、先に言った方が勝つ。

小沢から守旧派と名指されたとき、梶山は最初、面食らって、

「シュキュウってなんだぁ」

と間延びした声で私にたずねたほどだ。

大正生まれの梶山の記憶のかなたに追いやられていた言葉が、

小沢によっていきなり持ち出されたことに驚いたのである。

 

田崎史郎『政治家失格』(文春新書)

 

梶山が無知なのではない。

むしろ彼は、陸軍航空士官学校を卒業した秀才だ。

「守旧派」は、いまでこそ政治の場面で頻繁につかわれるが、

その仕掛け人となつたのが、小沢らしい。

肯定的な響きをもつ「保守派」では、ダメなのだ。

おそらく小沢は辞書をひきながら、

適量の毒をふくむ単語をさがしたのだろう。

結局、彼は政争にやぶれはするが、

「改革」熱にほだされたマスメディアに後押しされ、

離党後の衆院選で、政権交代を実現する。

小泉純一郎が、「改革なくして成長なし」などと騒いで、

大衆の耳目をあつめたのは記憶にあたらしい。

しかしこれなど、小沢がもちいた修辞法の、

つたない模倣にすぎないといえる。

 

 

 

民主党をひきいる小沢は、「生活第一」という旗印のもと、

自民党の政策との差異をうちだし、

まがりなりにも二大政党制の体裁をととのえた。

紆余曲折、毀誉褒貶。

首尾一貫した政治家人生とは、とても言えない岩手の虎が、

二十年ものあいだ、最重要な政治家でありつづけたのは、

ひとえに、だれよりも選挙戦略に秀でているからだ。

 

どの候補なら当選できるか、どこにお金を投入すればよいのか、

現在ならば全国三百小選挙区の事情をすべて頭に入れる。

当選確実な候補と落選確実な候補には全く目を向けず、

ボーダーラインの候補に全力を注入してゆく。

それは非情でなくてはできないことだ。

 

同書より引用

 

彼の言葉は、単に耳ざわりのよさを追求したのではなく、

一票をあらそう、現実主義からみちびかれたもの。

小沢は六年まえに合流してから、億劫がつて地元をまわらない、

カッコつけの民主党候補たちを、つねに叱咤してきた。

せめて自民党の半分でいいから、大衆の中にはいつて語りあえ。

地方へゆけば労働組合幹部と会合をもち、農業団体を熱心にまわる。

田中角栄直伝の「どぶ板選挙」だ。

そうこうして民主党は、政権担当能力があるとみなされるまでに成長。

特に若手議員の能力は、大仁田厚などに代表される、

愚鈍な「小泉チルドレン」よりはるかに上だと、

古参の自民党議員はなげいているらしい。

 

 

 

なぜ政界において、このリアリストが悪鬼のごとく恐れられるのか、

おわかりいただけたろう。

しかし、そんな小沢の手腕が通用しない唯一の相手がいる。

サルバトール・ダリなみの超現実主義を党是とする、

旧・社会党、現・社会民主党だ。

平成六年には、政局の変転についてゆけず集団発狂し、

自民党と連立政権をくんだ挙げ句、党の方針を五百四十度転回。

安保条約肯定、原発肯定、非武装中立を放棄。

この国の政治に、百年かけても癒せない傷をおわせた。

自業自得というわけで、ほどなくして社会党は崩壊したが、

いまの参議院での五議席が、これから重要性を増してくる。

もし衆院選で民主党が勝つたとしても、

参議院での過半数を確保するため、社民党と手をくまねばならない。

小沢としては、悪夢をみる思いだろう。

さて、民主党代表選での政見演説を引いて、しめくくろう。

 

最後に、私はいま、青年時代に見た映画『山猫』の

クライマックスの台詞を思い出しております。

イタリア統一革命に身を投じた甥を支援している名門の公爵に、

ある人が「あなたのような方がなぜ革命軍を支援するのですか」

とたずねました。

バート・ランカスターの演じる老貴族は静かに答えます。

「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」

 

『小沢一郎ウェブサイト』

 

ルキノ・ヴィスコンティから引用!

なんたる趣味のよさ。

まつりごとの道の、一寸先は闇。

この記事をかいている最中に、

小沢が党代表を辞任するという知らせをきき、おどろいた。

しかし、ヴィスコンティを愛する人間にニセモノはいない、

というオレの確信までゆらぐことはない。




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(2009/03)
田崎 史郎

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