闇にうかぶもの ― 『チェイサー』

 

チェイサー

 

出演:キム・ユンソク ハ・ジョンウ ソ・ヨンヒ

監督:ナ・ホンジン

制作:韓国 二〇〇八年

[ユナイテッドシネマとしまえんで鑑賞]

 

 

 

十か月で二十一人を殺した罪で、二〇〇六年に死刑が確定した、

韓国の「ユ・ヨンチョル事件」に取材した作品。

電話でデリヘル嬢をよびだし、自宅で殺す。

死体は庭にうめる。

出前感覚の連続殺人だ。

よほどの度胸がないと、デリヘル嬢はつとまらないな。

と、思つていたが。

『Yahoo!知恵袋』に投稿された質問から、引用する。

 

lovejacklovemovieさんの質問

 

デリヘルって危険性ありますか?

一度呼んでみたいんですが、

何かあったら怖いので踏み切れません

デリヘルを呼ぶのは安全ですか?

犯罪に巻き込まれる可能性はありませんか?

 

客だつて怖いのだ。

風俗の玄人から、あたたかい助言がよせられる。

 

ベストアンサーに選ばれた回答

kokidemowakaiさん

 

老舗の信用あるところなら大丈夫だね。

電話受付の対応のいいところを選ぶこと。

ネット上に利用者の声が出てるので参考にする。

ただし、ホテルはあちら任せにせず自分で決めること。

 

映画をみると、被害者たちがあまりに哀れで、

わかい女を搾取する性産業に怒りをおぼえたが、

少々ウブな反応だつたかもしれない。

他者に食い物にされないよう、

だれもが知恵をしぼりながら、日常をいきている。

その意味で、本作にでてくるデリヘル嬢は、

単に小綺麗なだけで、たくましさが感じられない。

 

 

 

性的虐待を目的とする拉致事件の報道にふれるたび、

いたましくも、不可思議な気分になる。

暴漢どもはその犯行の最中、後悔するのではないか。

他人を強制的に拘束しつづけるのは、

ひとりでつとまる仕事ではない。

食事や入浴、さらには下の世話までするのだから。

一瞬でも隙をみせれば逃げるし、反撃される可能性もある。

赤ん坊をそだてるより、荷がおもい。

二、三日もすれば、心身ともに疲れはてるはず。

なのに、えてして映画のなかの凶悪犯は、

超然たるアンチヒーローとして描かれる。

本作のハ・ジョンウは、警察の取り調べのなかで、

心にひめた犯行動機をあばかれる。

実はかれは性的不能者で、

性交の代替手段として、女の体にノミをうちこんだ。

純粋で気高い精神をもつ、王子さま。

原型であるユ・ヨンチョルは、さえない三十男で、

結婚して子どもまでつくつているが、それだと面白くないらしい。

 

 

 

いやあ、今回も退屈な記事になりましたね。

色気も洒落もない。

なにせ気弱な性分なので、「実話にもとづく」とか言われると、

つい余計なことばかり考えてしまう。

批評家やブロガーは、大絶賛みたいだけど。

映画をかたりながら、社会をかたる気分になれるからかな。

「悲惨な事件を、娯楽として消費するのは許されるのか?」などと、

鬱々とする人間は、野暮の骨頂なのだろう。

いや、別にこの映画を駄作と言うつもりはない。

香水よりも、男の汗のにおいに執着する、

おそらく韓国映画ならではの味はすてがたい。

 

雨上がりの設定なので水をまいたのですが、

マンホールとか特に危ない。

ハ・ジョンウが実際に転んで血を流した。

当然NGだと思いフォーカスをはすしたら、

また立ち上がって走り出した。

あわててカメラを回しました。

何で止まらなかったのと聞くと、

だって監督、カットって言ってないからと。

 

『キネマ旬報』二〇〇九年五月上旬号

ナ・ホンジン監督ロング・インタビュー

取材・文:塩田時敏

 

社会問題はソウルの闇のなかに溶けこみ、

銀幕にうつるのは、男同士の鬼ゴッコと殴りあい。

ただひたすら、それだけ。

幼稚な映画だが、消しがたい鮮烈な印象がのこる。


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ケン

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