尾崎かおり『金のひつじ』1巻
金のひつじ
作者:尾崎かおり
掲載誌:『月刊アフタヌーン』(講談社)2017年-
単行本:アフタヌーンKC
寡作で知られる尾崎かおりの新作は、青春もの。
6年ぶりに再会した幼なじみ4人の、すれちがいがテーマだ。
テイストは、かなり苦い。
優しいまま、純粋なままであり続けるのを許さない世界に対し、
主人公は不器用なやりかたで抵抗をみせる。
絵柄はときに愛らしく、ときに繊細で、ときに大胆で、
それに瑞々しくかつ老練、まあ達者な画力と言うほかない。
舞台は山麓の田舎町。
地元民は方言をつかわない。
制服のない高校が多いと聞く長野県かとおもったが、
上京するのに飛行機に乗ってたので違うかな。
意図して読者の地理的追求をはぐらかす描写もある。
本作はいじめのシーンがくりかえし描かれる。
作者の表現力が卓抜すぎ、読んでいて息がつまる。
いじめる側にも共感できるので、やるせないのだ。
だから主人公の母親のかわいらしさにホッとする。
酔っぱらって帰宅した母が、たいして現実味のない再婚話を口にする。
転校先で問題をかかえる主人公は、つれない態度をとる。
呆けた感じの横顔、冷蔵庫の閉まる音……空気感が圧倒的。
家出してやってきた渋谷で、別居中の父と会う。
作者は情報を出し渋りつつ、それでも個性をきわだたせる。
1巻時点では、「ギター」とゆうギミックを十分いかせてない印象。
別にバットや竹刀やバイオリンでもいい気がする。
ゆえにもうひとつのギミック、つまり「いじめ」が目立ちすぎ、読後感が重い。
尾崎かおりに代わる作家などいないので、
これはこれとして受けとめるしかないけれど。
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