司令塔 ― 第9節 ジェフ千葉 対 鹿島アントラーズ
J1 第9節 ジェフユナイテッド千葉 対 鹿島アントラーズ
結果:0-2 (0-1 0-1)
得点者:前半15分 野沢拓也 後半5分 小笠原満男(PK)
会場:フクダ電子アリーナ
[現地観戦]
鹿島アントラーズといえば、いささか古風なブラジリアンスタイル。
ヨーロッパの戦術の最新流行をとりいれるとか、
余計な色気をださない愚直さが、強味だ。
では、そのブラジルらしさとは一体何なのか。
きのうの試合で、日本のサッカー選手のある発言をおもいだした。
たしか、カズだつたはず。
ブラジルというと、つい攻撃の選手に目がゆくけど、
もつとも人材が豊富なのは、ザゲイロ(センターバック)なんだよ。
なるほど。
サッカーでは普通、前からうまい順に面子をならべる。
つまり、後ろにゆくほど不器用になるわけだが、
ブラジルは人的資源があり余つているから、
最後尾に非凡な才能がかくれていたりする。
そして、鹿島による二度の栄光の時代は、
有能なザゲイロたちがきづいたのではないか。
かつては、秋田豊と奥野僚右。
いまは、岩政大樹と大岩剛。
さらに昨季終盤から、二十三歳の伊野波雅彦が定位置をつかみ、
クラブの基礎はさらに盤石となつた。
オリヴェイラ監督はきのう、伊野波のかわりに、
今季まだ出場がない三十六歳の大岩を起用した。
鹿島の情報をおいかけていないので、理由はよくわからない。
不動の右サイドバックである内田篤人が、胃炎で欠場するため、
経験豊富な大岩で、混乱を最小限にとどめようとしたのか。
だとすればその意図は、にくらしいほど有効だつた!
大岩剛のプレーは、洗練のきわみだ。
千葉の選手より一秒先に、空間をうめる予知能力。
そして味方への指示は、異常なほど細かくて、しつこい。
岩政との位置関係は阿吽の呼吸つてやつだが、
新加入の二十二歳の左サイドバック、
パク・チュホに対しては、数秒おきに位置を修正する。
みえない糸であやつられるように、大岩の左手のうごきにあわせ、
パクがてくてくと前後左右にあるく。
中盤でパスをまわすときは、逆側にいる選手を指さし、
サイドチェンジの指令をだす。
中田英寿が頭角をあらわしたころ、「司令塔」という言葉がはやつたが、
むしろ大岩のような、ザゲイロを称するのにふさわしいと思う。
失礼ながら、のこる現役生活はそう長くないであろう大岩は、
「ヨーイ、ドン!」の駆けつこでは、千葉の新居や深井にかなわない。
ただ徒競争のスタートライン、すなわちオフサイドラインは、
大岩が自由に設置するから、不公平な勝負なのだ。
シュート数は、千葉の二十一に対し鹿島は十九。
意味のある数字ではない。
わがジェフユナイテッドの攻撃は、敵の司令塔をゆすぶるまでに至らず、
シュートも苦しまぎれのものが多かつた。
終了まで残り5分になると、鹿島の選手全員のスイッチが突如きりかわり、
だれもがボールを堅持しようとする。
あざやかなものだ。
チーム戦術への忠実さは、あらゆるクラブが見習うべきものだが、
その精神が伝統によつて養われたものだとすれば、
数シーズンで身につけようがないのも事実。
正直ずつと前から、鹿島のサッカーは嫌いなのだけれど、
Jリーグのひとつの極として、敬意に値するとはおもう。
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