トニー・ギルロイの時代 ― 『デュプリシティ』

 

デュプリシティ スパイは、スパイに嘘をつく

 

出演:ジュリア・ロバーツ クライヴ・オーウェン ポール・ジアマッティ

監督:トニー・ギルロイ

制作:アメリカ 二〇〇八年

[新宿武蔵野館で鑑賞]

 

 

 

トニー・ギルロイは、ニューヨーク出身の映画監督、脚本家。

一九五六年うまれ。

『はてなキーワード』によると、こうある。

 

映画脚本家フランク・D・ギルロイの息子。

映画編集技師ジョン・ギルロイの弟。

映画脚本家ダン・ギルロイの兄。

映画女優レネ・ルッソの義兄(ダンの妻)。

映画俳優サム・ギルロイの父。

 

なんだかよくわからないが、要するに、

血管に映画という液体がながれる男なのだろう。

ジュリア・ロバーツは彼を、

「百万人にひとりいるかいないかの才能にあふれた人」と評する。

現代の映画界をかたるのに、ジュリア以上の適任者がいるだろうか?

すくなくともオレは、異論がない。

また、統計を確認してはいないが、

世界に映画制作者が百万人以上いるとはおもえない。

つまりギルロイは、世界最高の映画作家だ。

巨匠ぶるわりに、雑な映画ばかりつくるイーストウッドなどとちがい、

その作品は、端然たる風格をただよわす。

まだ二作しか、映画をつくつていないけれども。

 

 

 

本作は、トイレタリー業界の大手企業同士による、

あさましいスパイ合戦を題材とする。

「花王」と「ライオン」が、非合法手段にたよつて抗争するような泥沼。

上に借用したのは、ポール・ジアマッティとトム・ウィルキンソン、

競合企業のCEOがかちあう、冒頭の場面。

ギルロイの美点が、すべてそろう。

雨天のもと、人気のない滑走路の寂寥感。

社用機からおりたばかりの経営者たちが、

高級スーツをよごしながら、取つ組みあいをはじめる。

その唐突さ。

風景をきりとる美意識、いつもより緊張にはりつめた役者たち、

完璧に制御された筋書きの妙。

泉下のキューブリックが嫉妬しそう。

狂言まわしを演じながら主役級の活躍をみせる、

変幻自在のジアマッティがすばらしい。

三枚目は、あくまで滑稽に。

イギリス男は、あくまで訛つた英語をしやべり。

ジュリア・ロバーツは、あくまでジュリア・ロバーツらしく。

さて、また引用です。

 

撮影中、僕が「もう1テイク違うふうにやってみよう」と言って、

彼女に「やってもいいけど、今のがベストよ。

違うふうにやっても、あなたが欲しいとおもうのは

さっきのテイクよ。」と言われたりしたことがある。

そして、彼女はいつも正しかった。

 

プログラム「監督インタビュー」

取材・構成:猿渡由紀

 

「彼女」とは勿論、ジュリアのこと。

さすがは脚本家出身、インタビューの発言まで芝居じみている。

 

 

 

ギルロイ作品の登場人物は、エリートがおほい。

しかし彼または彼女は、能天気な「セレブ」ではない。

自分が優秀であると確信しているが、地位をうしなう危険におびえ、

つねに他者をうたがい、攻撃的にふるまう。

そして、みづからの職務に忠実なあまり、

不適切な手段をえらぶまでに追いこまれ、破滅する。

ブラウスの腋の下を汗でぬらしながら、

許されざる罪をおかした、ティルダ・スウィントンはわすれがたい。

喜劇を基調とする本作でも、その滅びの美学は健在。

末尾でコンゲームの勝者があきらかになるが、

計略の具体的な段どりの説明は、あつさりしたものだ。

そしてカメラは、ホテルのロビーにとりのこされた敗者ふたりを凝視。

抑えのきいた趣味が感じられる。

 

でも、今でも職業を聞かれたら、僕は脚本家と答える。

監督と名乗ることには、まだ躊躇を感じるんだ。

この先どうなるかは、わからないけれどね。

 

同記事より引用

 

これほどの成功をおさめながら、「監督」を名のらない。

謙虚をとおりこして、不気味ですらある。

 






ギルロイの前作『フィクサー』についての拙文は、以下を参照のこと。

 

銀狐の生態 ― 『フィクサー』再見



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苑田 健

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