大塚英志『日本がバカだから戦争に負けた』

たくま朋正/水野良『ロードス島戦記 灰色の魔女』(角川コミックス・エース)

 

 

日本がバカだから戦争に負けた 角川書店と教養の運命

 

著者:大塚英志

発行:星海社 2017年

レーベル:星海社新書

 

 

 

『「おたく」の精神史』『二階の住人とその時代』につづく、

日本のサブカルチャーの歴史をたどる三部作の完結巻。

タイトルが軍事ものみたいでミスリーディングだし、

僕はあまり評論系の本を読まないクチだが、本書は力作とおもった。

リアルタイムで知ってる出来事に、納得できる解釈がなされている。

 

80年代後半、新聞社がおこなう高校生対象の読書調査で、

水野良の小説『ロードス島戦記』が、夏目漱石と一位二位をわけあった。

衝撃的な事件だった。

日本人の教養が、古典からラノベに交代した。

 

 

 

 

ロードスは小説だが、もとは1986年から『コンプティーク』誌掲載の、

テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイから派生した。

このあたり補足説明が必要かもしれないが、

正直めんどくさいし、言ってもその「新しさ」はつたわらないだろう。

 

とにかく当時、角川歴彦はTRPGにいれこんでいた。

D&Dの発売元であるTSR社をたづねるためアメリカへ飛んだり、

『ドラゴンランス戦記』翻訳のため、グループSNEの安田均と接触したりした。

 

 

 

 

将棋の奨励会初等科に属していた歴彦は、ゲームへの親和性があったらしい。

そして経営者としては、TRPGの「システム」に刮目した。

プレイヤーがテーブルをかこんで会話し、ダイスをころがすなかで、

物語が勝手に生成されてゆくメカニズムに。

 

歴彦が後継者に、ドワンゴの川上量生を抜擢したのも、

ニコニコ動画のシステムがTRPGに似ているから。

ひとりの天才が、斬新なキャラクターや世界観をフルスクラッチで創造し、

受け手はそのメッセージをありがたく学び取る……。

そんな風習はスマートじゃない。

ワイワイガヤガヤ、アットランダムに、いまこの瞬間をたのしめ。

 

 

 

 

1992年に歴彦は兄・春樹と対立し、角川書店から追放される。

歴彦にちかい立場にいた著者は、彼が副社長室から、

ドラゴンのフィギュアをいくつか大切そうに持ち出すのを目撃した。

TRPG文化への歴彦の思い入れがつたわるエピソードだ。

 

ドラゴンはあの時の歴彦にとって、

TRPG的ファンタジーの象徴のようなものでした。

角川のロゴは鳳凰ですが、あの時の歴彦にとっては

ドラゴンがその位置に心情的にはあったとさえ言えます。

 

p183

 

その後ドラゴンは猛威をふるい、ラノベやボーカロイドなどの亜種をうみだし、

古典的な物語のコミュニティを焼け野原にした。

悪龍を退治するヒーローの誕生がまちのぞまれる。





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