『ナデシコ女学院諜報部!』 第13章「スティンガー」


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 炎上し崩壊するシンデレラ城を、ミキは呆然と見上げる。来場者や従業員が悲鳴を上げながら衝突し、蜂の巣をつついた様な混乱だ。笑顔のくまのプーさんが、赤ん坊を抱いて走る母親を突き飛ばす。

 ミキは人混みを掻き分けながら考える。

 随分と雑な戦術だ。セミアクティブレーダーで誘導されるヘルファイアの命中精度は、こんなものじゃない。八キロ離れた地点から、トイレの窓を狙えるくらいなのに。

 敵は混乱している。

 勿論それがミキの行動方針だ。神出鬼没の機動で敵を引きずり回し、有利な状況をつくって決戦をいどむ。いつものプレイスタイルだ。

 レストランから、SCARを構えたSADオペレーター四名があらわれる。ファンタジーランドの雰囲気をぶち壊す無粋な男ども。

 千鳥やきららとは、しばらく合流できそうにない。無事を祈るしかない。自分がこの四人を引きつけて打開したい。

 ミキは遮蔽物をもとめ、鉄柵を飛び越えて「アリスのティーパーティー」へ踏みこむ。にぎやかな音楽が流れるなか、床とカップが高速回転しはじめる。ライフル弾がカップに当たり、リズミカルな伴奏をつける。

 ミキは駆け寄るSADに対し、MP7を発砲する。弾は見当ちがいの方向へ飛ぶ。だが百戦錬磨の射手である敵も、ライドの不規則な動きに手こずる。

 ミキはライドから降りて逃げる。敵の気配がない。追手を撒いたとはおもえない。SADはおもに軍の特殊部隊出身者で構成されている。無能なはずない。深追いしないのは理由がある。

 ヘルファイアだ。

 ミキは空を見上げる。上空の黒点が空対地ミサイルだと判断する。ヘルファイアの速度は秒速四百二十五メートル。甘く見積もって命中まで十秒。

 ミキは運行開始間際の「空飛ぶダンボ」に飛び乗る。レバーを倒すとダンボがふわりと舞い上がり、ヘルファイアの直撃を躱す。しかし爆風で土台ごとライドが揺れる。指揮棒を振るティモシーマウスが立つ中央の柱が、根元から折れる。

 ミキは前転しながら着地する。両手で全身をまさぐる。骨折などの重傷はない。ツイてる。まだまだイケる。

 ディズニーってあんま好きじゃなかったけど、思ってたより刺激的だな。




 きららはAWライフルを両手で持ったまま、シンデレラ城前の広場で立ち尽くす。お城が焼け落ちたのを信じられない。いくらなんでもやりすぎだと思う。夢の国で戦争するなんて。

 目眩がして、ベンチに腰を下ろす。自然と涙がこぼれる。自分がいかにディズニーランドを愛していたのかに気づく。

 なにかと気苦労の多い女子にとって、現実逃避できる場所は必要だ。無邪気な子供に戻ってはしゃいで、ストレス発散しなきゃやってけない。

 つくづく自分は損な性格だとおもう。それなりに気配りが上手で、頼まれると断れないのをいいことに、いつの間に諜報部部長や生徒会長にならされていた。教師に苦情を言われ、OGに振り回され、自分勝手な下級生に悩まされる毎日。多事多忙で、恋愛にも縁がないまま十八歳になった。そこそこ美人だと自負してるのだけど。

 それはそれでいい。人の役に立つのは嫌いじゃない。でもこんな私から、たまの楽しみを奪うことないじゃない。

 冗談じゃないわよ。

 きららは怒りに震えつつ立ち上がる。ゴミ箱の横側をひらき、照準器のついたミサイル発射装置をとりだす。諜報部OGの白井が隠匿しておいた、携帯式防空ミサイルシステムのスティンガーだ。

 きららは照準器を覗きながら、ユニットの開放スイッチを押す。発射可能であると知らせるブザーが鳴る。

 これは父の仇討ちでもある。きららの父親は特殊作戦群の指揮官で、テスラシステムを奪うため六年前に米軍と交戦した。優秀な自衛官だったが、命令違反と部下に多数の死傷者を出した責任をとらされ、左遷同然に防衛駐在官として外国へ赴任した。飛び立つ前に娘に、公安ですらその存在を知らない、天才ハッカーである氷雨の保護を託した。

 きららはトリガーを引く。

 白い航跡を残しながらミサイルが突進する。赤外線センサーをもちいた自動追尾機能により、高度三千メートルを旋回するリーパーを撃墜した。




 敵航空戦力を排除したことで、諜報部の三人はどうにか合流する。千鳥のお気にいりのレザージャケットは、背中が大きく破けている。

 三人は『ふしぎの国のアリス』をモチーフにしたレストラン、「クイーン・オブ・ハートのバンケットホール」へ向かう。トランプの兵士に見守られながら店内に入ると、人の姿はなく、チェス盤を模した床にテーブルと椅子が転がっている。店の周囲で何度もミサイルが爆発してるのだから当然か。

 三人は足音をしのばせて厨房をすすむ。火がついたままのコンロの上でスープが煮えている。ミキはつまみ食いしたい欲望と戦う。

 ドアを開けて廊下へ出る。千鳥は角の前で立ち止まり、小火器用のアダプターであるコーナーショットを構える。先端にグロック19が装着され、手前に小さなモニターがある。先端部を右に九十度折り曲げ、自身を敵の射線にさらさずに奥を観察する。

 デニムシャツを着たSADオペレーターが、モニターに映る。地下基地へつながるエレベーターの番をしている。オペレーターは即反応し、SCARを発砲する。千鳥は落ち着いて敵を赤い十字にとらえ、四回トリガーを引く。アダプターと連動したグロックが九ミリ弾を放つ。オペレーターは斃れた。

 ミキは間髪いれずエレベーターへ走り、MP7の銃口をオペレーターに向ける。その必要はなかった。さすがはフリーキックの名手、全弾頭部に命中している。

 ミキはボタンを押してエレベーターに乗りこみ、ドアが閉まらないよう手で止める。

 ミキが言う。「卑怯な武器だなあ。ロマンがない。でも使ってみたい。ちょっと交換しましょう」

「いや」千鳥が答える。「あたしらはここに残る」

 千鳥はグロックをアダプターから分離し、両手で握る。アサルトライフルのHK416を持つきららと一緒に、ミキに背を向けている。

「へ?」ミキが言う。「なに言ってんですか」

「じきにSADが殺到する。あたしら二人で食い止める。テスラシステムの方は任せた」

「嫌ですよ。いままで散々チームワークが大事と言ってたくせに、そりゃないでしょ」

「お前にそんなもの期待してねえよ。なあ、メッシとかロナウドとか知ってるか」

「サッカー選手ですか」

「あいつらは守備をしないんだ。ほかの十人が汗をかいてるあいだ、ずっとサボってる。その代わり、絶対に点を取ることを要求される」

「それがボクだと」

「諜報部のエースはお前だろ」

 千鳥はニヤリと笑う。

 ミキの細い両腕に鳥肌が立つ。ここに残るのと、テスラシステムへ向かうのと、どちらが危険かはわからない。

 とにかく期待に応えたい。

 ミキと千鳥は、おたがいの拳をぶつけ合った。




 ミキは、おかっぱ頭のアルテミシアに背中を小突かれ、管制室に入る。エレベーターを降りたあと、SAD二名と交戦し無力化したが、アルテミシアに武装解除された。

 約四十名がいた管制室は、ジェーンとアルテミシアのほか、三名の技術者しか残ってない。ウォーターサーバーのゴボゴボとゆう気泡の音が、静寂の空間に響く。

 無人航空機が不慮の攻撃をしかけたことにより、指揮権はCIAから国防総省へ委譲された。三十分以内に、待機していた三千人規模の兵員が浦安に展開される。「第二次トモダチ作戦」発動だ。作戦目標は六年前と同様、テスラシステムの確保。名実ともに日米両国は武力紛争状態におちいった。

 逃げ足の速さで知られるCIA高官たちは、自分に責任がないと立證する書類をつくりに、執務室のあるフロント企業へもどった。

 ジェーンは尖った顎を傲然と突き出し、腕を組む。彼女はいつも腕組みしている。

「ボディチェックはしたの」

 アルテミシアが答える。「ええ」

「具体的に報告して」

「膣や直腸まで調べたわ。生理中だった」

「甘いわね」

 ジェーンは左手でミキの顎をつかみ、無理やり口を開かせる。右手に拳銃のファイブセブンを持っている。ミキの奥歯を観察しながら言う。

「たとえば歯に毒物を仕込んでるかもしれない。私ならもっと徹底的にやる。ペンチとかドリルとか、使えそうなのを持ってきて」

 どんよりした目でうなづき、アルテミシアは管制室から出る。

 ジェーンは顎から手を離す。ミキの左目に紫色の炎がゆらめく。

 拷問が怖くてスパイはつとまらない。歯の一本や二本、くれてやる。

「バカな女」ジェーンが言う。「東京から離れろと忠告してやったのに。そんなに命を捨てたいなら、手伝ってあげるわ」

「死ぬときは刺し違えて死ぬ」

 ジェーンは十字架をいじりながら、くぐもった声で笑う。いまの状況が楽しくて仕方ないらしい。

「悲劇じゃなく喜劇で終幕ね。カミカゼガール、お前は最高の道化だったわ」

 いましかない。

 ミキは脱兎の様に走り出す。ジェーンとの十メートルの間隔を一気にちぢめる。

 ジェーンは当然、反撃を予期していた。眉ひとつ動かさずにファイブセブンの銃口をむける。

 ミキは機敏に方向を変え、ジェーンの脇をすり抜ける。コアシステムにつながれたノートPCへ駆け寄る。USBメモリをポートに挿す。血で濡れてるのは、生理用タンポンに擬した容器に隠していたから。氷雨の自宅から拝借したスパイ道具だ。幸か不幸かちょうど月経が来たので、いい偽装になった。生理が軽いタチで助かった。

 USBメモリには、氷雨から受け取ったプログラムを保存してある。六年前にテスラシステムの防壁を書き換えた当人だから、突破するのはたやすい。地震発生を停止すると同時に、電圧を急上昇させてシステムを内部から破壊する。非常ランプとサイレンで、管制室は途端に騒がしくなる。

 ファイブセブンを構えるジェーンが、ゆっくり近づく。平静を装うが、口の端が痙攣している。

「で?」ジェーンが言う。「そんなガラクタを壊されたところで、痛くも痒くもない」

「これを見てもそう言えるかな」

 ミキはコアシステムの操作卓のスロットから、日本刀を引き抜く。

 国宝・七星剣だ。




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苑田 健

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