『ナデシコ女学院諜報部!』 第12章「ディズニー」


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 ところはJR京葉線・舞浜駅ちかくにある東京ディズニーランドホテル。結婚披露宴がホールでひらかれている。ミッキーマウスとミニーマウスが新郎新婦に付き添い、ウェディングケーキの入刀をおこなう。ドナルドダックが感動の瞬間を祝福する。

 そしてミッキーたちがダンサーをまじえて踊り、記念撮影をし、幸せの絶頂にある二人を送り出して、披露宴は幕を下ろす。

 ディズニーキャラクターの三体は控室へもどり、被り物を脱ぐ。

 ミッキーマウスの中に入っていたミキは、汗だくのまま笑顔で言う。

「たのしかった! いきなり引っぱりこまれて焦ったけど」

 ミニーマウスだった千鳥は号泣している。

「うんうん、結婚式っていいもんだなあ。あたしも早く相手見つけて結婚したい。でもって子供は三人ほしい」

 きららは口を尖らせる。

「なんで私がドナルドなのよ。月に二回来るくらいディズニー好きなのに。部長なんだから選ぶ権利あるでしょ」

「まあまあ」ミキが言う。「そんなことより、CIAがホテルをうろついてますね。しきりに無線で交信してる」

「ミニーちゃんになるのが夢だったのよ……」

「泣くほどショックとは」

 きららは泣きじゃくりつつノートPCをひらく。すでにホテルの監視システムをハッキングしており、廊下が画面に映っている。スーツを着た白人の男が、控室のドアの前を駆け足で横切る。ミキたちを探している様だ。

 赤い制服を着た女が、控室に入ってきた。ナデシコ女学院諜報部のOGで、今回ミキたちを手引きした、ホテル従業員で二十三歳の白井だ。

「うざっ」白井が言う。「物騒なやつらが、私たちの夢の国を荒らしてる。懲らしめてやって」

 ミキが答える。「協力ありがとうございます」

「お安い御用よ。東京ディズニーリゾートの職員で一番多いのは、学院出身者なの。ゲストもふくめれば、学院がここを支配してると言っていい」

「へえ」

「女子のネットワークをなめたら痛い目にあうと、CIAは知らないんでしょうね」

 白井は後輩であるきららの髪を手で梳き、頭頂部に顎をのせる。妙に馴れ馴れしいが、きららは表情を変えずPCを操作する。ネットワークとやらが何を意味するか、深く追求すべきでないとミキは判断した。




 諜報部の三人は、ホテルのエレベーターで地下三階まで降りる。ドアがひらかない。操作盤のカバーをスライドし、鍵を差し込んでひねる。ミキが総支配人室に忍びこんでアイフォンで撮影し、白井に3Dプリンタで複製してもらった鍵だ。

 エレベーターから出ると、そこは日本最大の地下通路だった。数匹のネズミが足許を駆け抜けたのが、鳴き声でわかる。照明はまばらで薄暗く、剥き出しの太いパイプが左右に設置されている。ごく限られた関係者のみアクセスを許された区域であり、テスラシステムのある軍事基地へ通ずる。

 ミキの服装は、ジャンパースカートもタイツも靴も帽子も黒づくめ。チョーカーまで黒で、白く細い首とのコントラストがあざやかだ。迷彩柄のアーマーで胴体を守っている。

 きららはアキュラシー・インターナショナル社の狙撃銃である、AWライフルを装備する。

 目を輝かせてミキが言う。

「諜報部にこんなのあったんですね。教えてくれればいいのに」

 きららが答える。「これは私物よ」

「マジすか」

「実は父が自衛官で、銃の使い方を叩きこまれたの。狩猟にもよく連れてかれるし」

「ボクの父はサバゲが趣味でした」

 ミキはサブマシンガンのMP7を、コンコンと右中指の関節で叩く。たのむぜ、相棒。

 すべての電灯が消えた。

 ミキが叫ぶ。「暗視装置!」

 光量が増幅された緑色の世界が、ミキの眼前にひろがる。待ち伏せにあったのに、不思議と落ち着く。

 ライフルの連射音と、銃弾がコンクリートやパイプで跳ねる音が、トンネルに反響して耳を聾する。数十メートル先で、緑の人型のシルエットがうごめく。敵は六人ほどいる。

 ミキは前方へ猛然と駆け出す。

 普段は予防接種も嫌で逃げるほど臆病だが、勝ち負けが絡むと恐怖心が吹き飛ぶ。だれが相手だろうと負けたくない。

 まるで背中に翼が生えた様に、体が軽い。筋肉が勝手にうごく。単色の風景がフルカラーに感じられる。敵味方の位置取りや次の動きが、気配として伝わる。

 ミキは瞬く間に三人を斃す。

 CIAの特別行動部隊(SAD)らしき敵対勢力は、死傷者を放置してトンネルの奥へ撤退する。




 SADはミキの戦闘力を侮ってない。イラクで即席爆弾を隠し持つ幼女を、冷徹に射殺した経験さえある連中だ。作戦中に油断はしない。

 ありふれた戦闘の一局面だ。接触直後にはげしく攻撃した側が、主導権をにぎるのは道理。プロフェッショナルであるSADは、彼我の戦力差を客観的に認識している。練度と装備が桁違いだ。敵の攻勢終末点まで後退し、そこで反撃に転じればよい。

 MP7の四・六ミリ弾で頬を撃ち抜かれた、身長百九十センチのSADオペレーターが、最後のエネルギーを燃やし立ち上がる。死んだと思いこんで通り過ぎたミキに、ナイフを振り下ろす。

 ターンッ!

 三〇八口径弾で、さらに大きな穴を後頭部に開けられたオペレーターは、脳漿を闇に撒き散らしながら倒れる。きららがAWを発砲した。

 ミキは、原形をとどめないオペレーターの頭部を見下ろす。

 悪く思わないでくれ。付随被害だ。

 ミキはヘッドセットできららと交信する。

「ありがとうございます」

「もっと周囲に気を配って」

「ゲームと同じにはいきませんね。ヘッドショット一発で死ぬとはかぎらない」

「笑えない冗談だわ」

「ボクの暴走癖に呆れてるのはわかってます。でも、こうゆう風にしか戦えないんです。とにかく後ろは任せました」

「私はともかく、千鳥ちゃんは納得してない様ね」

 肩を怒らせた千鳥のシルエットが、暗視装置のスクリーンに浮かぶ。右拳を固く握り、ミキを殴りつけようとしている。

 ミキは先手を取って、千鳥を突き飛ばす。そして自分もコンクリートの床に伏せる。

 バシューッ!

 ロケット弾が頭上を通過する。後方の壁にあたって爆発し、狭いトンネル内を焼き尽くす。

 ズダダダッ、ズダダダッ!

 増援と合流し十名となったSADが、復讐心を滾らせてアサルトライフルのSCARを斉射する。




 テスラシステムが鎮座する広い管制室は、いまはCIA高官や準軍事要員や技術者も加わり、総勢四十人ほどでごった返している。SADがミキたち諜報部員三名に思わぬ苦戦を強いられたので、一部はその対応でドタバタ走り回り、足を床の配線に引っかけて転ぶ者もいる。

 壁の巨大なディスプレイに、上空から見た東京ディズニーランドが映る。無人航空機であるMQ9リーパーが、高度五千メートルから撮影する映像だ。CIAと連携しつつ、アメリカ空軍パイロットが本国から遠隔操作している。

 首から十字架をさげたジェーンが、ノートPCをつかうアルテミシアの耳許でささやく。

「リーパーを乗っ取ってちょうだい」

 アルテミシアが答える。「どうする気?」

「蟻の巣をつぶして、生き埋めにする」

 壁のディスプレイに、SADと諜報部の交戦の様子も映っている。増援の到着により戦力比が逆転したため、諜報部はエレベーターで地上へ逃げる可能性が高い。

 おかっぱ頭のアルテミシアは虚ろな表情で、言われるまま空軍基地のコンピュータへ侵入する。PCの画面がシンデレラ城の俯瞰映像に切り替わった。

 一方でミキたち三名が、エレベーターに乗りこむ。

「発射」ジェーンが言う。

「なにを言ってるの」

「ヘルファイアをあの城に撃ちなさい」

「一般市民が何千人もいる」

「どうせ二時間後にみな死ぬでしょ」

 椅子に座るアルテミシアは、立っているジェーンを下から睨みつける。

「やはりあなたは狂ってる。大声を出すわ」

「ご勝手に。私はCIAを理解してる。だれもあなたに味方しない。九・一一以降、テロリストとみなされる人間をCIAが何人殺したか知ってる?」

「議論なんて必要ない」

「一万一千人よ。二十一世紀において、これほど『戦果』を上げた西側の軍事組織は他にない。CIAはいまや世界最大の軍隊のひとつなの」

「きっとあの中にアメリカ人もいるわ!」

 ジェーンは手でアルテミシアの口をふさぐ。椅子を横取りし、キーボードを叩く。

 画面の中心で爆炎が生じる。シンデレラ城のもっとも高い尖塔が折れ、煙のなかで逃げ惑う群衆の上に落ちる。

 リーパーの予期せぬ動作に、管制室内は恐慌状態となる。ジェーンは騒ぎを黙殺し、ノートPCに見入っている。

 笑えるわ。

 黄色い顔の猿が棲む国に、なんで中世ヨーロッパ風のお城が建ってるわけ?

 あいつらには、焼け野原がお似合いよ。




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苑田 健

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