『ナデシコ女学院諜報部!』 第11章「説得」


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 ミキは鉄柵へ駆け寄り、地面を見下ろす。真下に木立があり、氷雨の姿は見えない。

 校門の前にパトカーが二台駐まっている。銃声を聞いた周辺住民が通報したのだろう。捜査官三名をあっけなく殺された公安は、所轄警察署を統制できてないらしい。制服警官数名が木立へ殺到する。

 氷雨の安否が気がかりだ。なにがあったとしても、その責任は自分にあるとミキは痛感する。

 みんながボクに自重をもとめた。諜報部の仲間も、母親も。でもボクは耳を貸さなかった。

 いつだって周りが見えなくなる。ゲームのネット対戦で勝ったり、かわいい服を着て街中で注目されたりすると。調子に乗って、のめり込む。徹夜で遊んで消耗したり、ますます奇抜な恰好をしたり。

 でもいまのボクはひとりじゃなかった。守るべき仲間がいた。

 引き返すべきポイントはあった。セレブリテ学園に潜入するときとか、立場をうしなうほどジェーンを決勝戦で追いこむときとか。

 とりかえせない。これはゲームじゃない。セーブポイントに戻ってやりなおせない。

 部室棟の狭い屋上に、CIAの騒音軽減ヘリが降着する。SAD五名が続々と搭乗する。最後に乗降用ステップに足をかけたジェーンが、荷物を手にとり、鉄柵のそばにいるミキへ歩み寄る。手にしているのは緋色の刀袋だった。

 国宝・七星剣をミキに差し出し、ジェーンが言う。

「借り物を返すのを忘れてたわ」

「…………」

 ミキは背を向けたまま、下をながめている。

「いらないなら貰っておくけど。じゃ、御機嫌よう。五時間以内に東京から離れるべきと忠告しておくわ。よからぬことが起きるから」

 ミキは、ブレザーのポケットに両手を突っこんで振り向く。

「ボクを殺さないのか」

「殺してあげてもいいけど、雑魚のために報告書のページを増やしたくないの。はやくLAに帰って、家族やボーイフレンドに会いたいし」

「こっちの言う意味をわかってるのか。ボクは決してお前を許さない。たとえ泣いて謝っても」

「すてき。たったひとりで世界最強の国家に戦いを挑むのね。応援するわ」

 ジェーンは踊る様に反転し、ヘリコプターへ乗りこむ。バタバタとゆう風切音をほとんど立てずに、ヘリは新宿の上空を飛び去った。

 CIAは氷雨の生死を確認するより、所轄警察署との接触を避けるのを優先した。必要な情報は十分あつめたのだろう。

 ミキはゴンゴンと鈍い音を響かせながら、鉄柵に右の拳を振り下ろしつづける。




 新宿駅西口から徒歩十分ほどの高層ビル街に、ナデシコ女子医科大学病院がある。一階の救急処置室の前で待機していたミキと千鳥ときららは、看護師に入室をうながされる。

 ベッドに横たわる氷雨は、点滴装置と人工呼吸器をつけている。痛ましい姿だが、心肺停止していない證拠でもある。ミキは安堵した。

 開業医の娘で、自身も医学部進学をめざす千鳥が、緊急手術の担当医師に状況をたずねる。

 大腿骨骨折による出血多量で危険だったが、搬送が早かったため手術は成功した。肋骨が折れるなどして肺を損傷しており、人工呼吸器を使用しているが、こちらも今のところ深刻ではない。

 運がよかった。

 ミキが枕元へ近づくと、氷雨はかすかに口角をもちあげる。透明なマスク越しに、口をパクパク動かすのが見える。読唇術を習得してないミキでも、なにを言ってるかわかる。

 ごめんなさい。

 ミキは手の甲で、自分の右頬の涙をぬぐう。

 拷問されたきららや、屋上から飛び降りた氷雨は、どれほど孤立し絶望しただろう。それにくらべ、自分がいかに傲慢だったことか。

 ミキは花柄のワンピースが汚れるのも構わず、きららと千鳥に向かい土下座する。モップで掃除したとは言え、氷雨の血の跡がのこっている。医師と看護師は、唖然としてミキを見下ろす。

「お願いします」ミキが言う。「力を貸してください。ジェーンをやっつけたいんです。でもボクひとりじゃ何もできない」

 裸眼なので目を細めがちなきららが、手を引いてミキを立たせつつ言う。

「四時間後に大地震がおきるのよ」

「わかってます。先輩たちは陽動を仕掛けてください。その隙にボクが地下基地へ侵入します」

 腕組みした千鳥が、不愉快そうに鼻を鳴らす。ミキの気分は暗くなる。

 千鳥が言う。「冗談じゃねえよ」

「自分勝手なのはわかってます。でも……」

「なんでお前ひとりでオイシイ役を持ってくのさ。きららと氷雨がひどい目にあって、頭来てるのはあたしも同じだっちゅうの」

「千鳥先輩」

「あたしたちは仲間だ。おたがいのためなら、なんだって出来る」

 ミキと千鳥ときららは、視線をからめる。自然にたがいの手を重ね合う。




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苑田 健

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