『ナデシコ女学院諜報部!』 第7章「決勝戦」


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 小田急新宿駅の改札口へむかう上りエスカレーターに、諜報部の四人が乗っている。先頭に立つのはミキ。セレブリテ学園に潜入したときとおなじ、タータンチェックのジャケットを着ている。いわゆる勝負服だ。

 背後に立つきららが、スマートグラスを通じてだれかと話している。ようやく使い方をおぼえたらしい。ありがとうと言って通話を切る。

「やっぱり」きららが言う。「セレブリテは急行に乗って新宿に来るわ。ジェーンをふくめて全員。中等部のコたちのお手柄ね」

 ミキが尋ねる。「中坊は敵を目視したんですか?」

「ええ。いまおなじ先頭車輌に乗ってるって」

「そいつら信用できるのかな。コアメンバー以外に頼りすぎると、作戦を台無しにしかねない」

「かわいくて優秀なコたちよ」

 きららは鼻に皺をよせる。六歳からナデシコ女学院にかよう生え抜きだから、高等部からの外部生であるミキの、無遠慮な発言が気に障ったのだろう。

 ここ新宿駅が、スパイゲーム決勝戦の舞台となる。巨大ダンジョンと称される、世界一の乗降者数をほこるターミナル駅だ。ルールはシンプルな、四対四のチームデスマッチ。二十分以内に相手を何人斃せるかを競う。

 きょうリーグ戦の決着がつく。優勝チームのメンバーは、国内のどこでも好きな大学の入学資格をあたえられる。

 なんと、東大生・平手ミキの誕生だ。

 ミキは両手で頬を叩く。

 楽観してる場合か。

 諜報部で戦闘訓練をつんだミキは、運動神経のよい千鳥は例外としても、ほかの部員はアテにならないと感じた。きららは交渉、氷雨は技術面のサポートに適した人材だ。無策で試合にのぞめば、確実に負ける。

 きららを中心に四人でかんがえた作戦は、電車から降りた敵を待ち伏せ攻撃するもの。そこで二人ほど削れば、優位に試合をはこべる。

 ミキは改札をスイカで抜ける。平日の昼間だが混雑している。いまから新宿駅が塗料まみれになるのを、利用客は知らない。

 特急ロマンスカーの発着場でもある2・3番ホームで、ナデシコ諜報部員たちは待機する。

 前面がブルーの急行列車が入ってきた。ミキはリュックサックからMP7をとりだし、ストックをのばす。千鳥とペアをくみ、柱の陰に身をひそめる。

 小田急4000形は、降車専用の3番ホームに人混みを吐きだす。

 ミキは右の親指の爪を噛む。なにかおかしい。

 かんがえろ。観察しろ。

 なにもおかしくない。

 つまり、なにもおかしくないのがおかしい。

 アイフォンのツイッターアプリで「小田急 新宿 ジェーン」と入力し、検索する。

 表示は「検索結果はありません」。

 ハリウッドスターが車内にいて、だれも何もつぶやかないとかありえない。

 偽情報だ。中等部は買収されていた。

「罠だ!」ミキが叫ぶ。「退避しろッ!」

 ズダダダダッ!

 連射音が駅構内で反響する。女の悲鳴が耳につきささる。ペイント弾で顔面を汚された老人が、呆然と立ちつくす。

 ミキは銃声がきこえた改札口の方を向く。オレンジの壁のロマンスカーカフェに、おかっぱ頭のアルテミシアがいる。コーヒーを飲んでるのではない。テーブルにおいたFN・MINIMIでフルオート射撃をおこなう。分隊支援火器まで持ち出せるのは、セレブリテの潤沢な資金をものがたる。

 ホームの奥からも、ドンパチの音が聞こえる。きららと氷雨のBチームが交戦してるらしい。だが混沌の渦にのみこまれたミキは、視覚的にも聴覚的にも確認できない。

 母親とはぐれたらしいお下げ髪の幼女が、「ママー」と泣き叫び、柱の陰から飛び出そうとする。ミキはそれを抱きすくめる。

 ミキは幼女の耳許で言う。

「もうちょっと我慢しな。お姉ちゃんが、あの迷惑女をやっつけるから」

 レザージャケットを着た千鳥が、すぐ隣のミキにむけて左の親指を立てる。右手は拳銃のグロック19をにぎっている。

 千鳥が言う。「ピンチなのに余裕あるな」

「はあ、まあ。ロリは正義なんで」

 千鳥は苦笑いする。サッカーの年代別の世界大会に出場したくらいで度胸はあり、退路を断たれても冷静さを残している。

「今回も」ミキが続ける。「掩護おねがいします」

「おいおい、カフェまで五十メートルはあるぞ。遮蔽物がないから絶対やられる」

「どこ見てんですか」

 ミキは黒く塗った爪で、2番ホームの線路をさす。

 たしかに段差があるから、死角になる。




 氷雨ときららが、新宿西口の前をドタバタ並走する。十月とはいえ日差しがつよく、ふたりとも汗だくになっている。

 ミキのいるAチームが包囲を突破したのに続き、いったん駅の外へ出た。はやく巻き返しの計画を立てたいが、Aチームとまともに通信できない。

 部長のきららは直感にしたがい北進し、ゆるやかな坂を駆け下りる。ユニクロの角を右折し、東口へ抜ける角筈ガードにたどりつく。

 とりあえず追手は撒いた。反対側にまわってからAチームと連携をとろう。

 ガード下は、小柄な氷雨でも頭上に圧迫感をおぼえるほど狭い。サラリーマンやキャバ嬢やホームレスが、銃をもった女子高生を奇異な目でみる。スマートフォンで撮影し、SNSで拡散する。決勝戦はのこり十五分。ギャラリーは増えてゆくだろう。

 ドォーン!

 爆発音が轟き、地面が揺れた。爆煙がガード下に充満する。転倒したサラリーマンを踏みつけ、キャバ嬢が逃げる。さっきホームレスが押していた台車が、主をうしなってさまよう。壁と天井が奥で崩落し、出口をふさいでいる。ホームレスが生き埋めになってないか心配だ。

 ズダダダッ、ズダダダッ!

 FN・MINIMIの連射音が、悪夢の第二幕のはじまりを告げる。

 氷雨ときららは、台車のダンボール箱の陰に隠れる。きららがグロックで応射するが、フルオートの弾幕に圧倒される。

 きららが叫ぶ。「氷雨ちゃんも撃ち返して!」

「はいっ」

 ダンボールから半身をのぞかせた氷雨を、5・56ミリ弾が襲う。おかっぱ頭のアルテミシアは、バイポッドを立てて伏射する。狙いは精密だ。ひとりで敵ふたりを釘付けにしている。

 氷雨は涙をこらえるので精一杯。銃弾の嵐に身をさらせと、自分に命令できない。

 きららが叫ぶ。「あっ」

 氷雨が右をむくと、きららの明るい色の髪が緑に染まっている。

 ヒットにより退場。

 うつむき加減できららが言う。

「ごめんなさい……私はあなたを守らないといけないのに」

 アルテミシアは、さらに気前よくペイント弾をばらまく。台車はストッパーがかかっておらず、衝撃ですこしづつ動く。氷雨の体力では制止できない。

 セレブリテ学園は予想以上に強い。勝てっこない。罠をひとつ食い破っても、その先に別の罠がある。袋小路にきららと氷雨が追いこまれた時点で、のこりの状況は二対三。いくらミキが奮闘しても逆転はむつかしい。

 ミキはどうしてるだろう。怪我してないだろうか。きっとまたムチャしてるはずだ。

 薄紫のパーカーのフードをかぶる氷雨は、歯ぎしりする。

 いったい私はなにをやってるんだ。

 機械が得意だからと言い訳し、いつも危ないことは人任せで甘えてばかり。

 そんな自分を変えたかったんじゃないのか。

 氷雨はグロックを腰のホルスターに挿し、空いた両手で台車の取手をつかむ。全身の力をふりしぼり、布団などの荷物が積まれた台車を押す。数十発の5・56ミリ弾が突き刺さるが、貫通する威力はない。加速した台車は、地面のMINIMIを撥ね飛ばす。

 アルテミシアは寸前で身をかわした。同時に拳銃のファイブセブンを抜く。

 しかし近接戦闘では氷雨に分がある。なにせ二歳から道場で稽古しているのだ。

 氷雨はアルテミシアの側面にまわり、ゴム製のダミーナイフの刃を喉にあてる。

 フードの下りた氷雨が、力づよく言う。

「一本ですっ」




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苑田 健

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