内戦の果てに ― 鳥集徹『ネットで暴走する医師たち』

 

ネットで暴走する医師たち

 

著者:鳥集徹

発行:WAVE出版 平成二十年

 

 

 

オレのしらないうちに、戦争がはじまつていた。

すくなからぬ医師が、ウェブ上の医師専用掲示板やブログで、

医療による被害をうつたえる遺族や、その支援者を、名指しで誹謗中傷。

「クレーマー」、「モンスター患者」、「自称被害者」、「医療テロリスト」。

そんなおぞましい実態を告発する本の存在をしつて、

Amazon.co.jpのページをひらいた。

カスタマーレビューは二十四件投稿されている。

星は平均でふたつ、という低評価。

「お金儲けのためなら何でもする人」

「許されざる出版」

「医療崩壊に一役買った「マスゴミ」の本領発揮」

「医療界に巣くう寄生虫」

これらのレビューに、「参考になった」の票が大量に投じられる。

センセーがたは、一体なにがしたいんだ?

みづからの「暴走」を、わざわざ証明している。

感情を剥き出しにすれば、オレみたいな野次馬をふやすだけなのに。

 

 

 

医師軍の根拠地となるのが、医療専門サイト「m3.com」。

会員登録する医師は十七万一千人で、なんと日本の医師の半数を優にこえる。

医療界の輿論形成に、おほきな役割をはたす。

平成十八年の「奈良県大淀病院事件」。

十九の病院から受けいれを拒否され、「たらい回し」にされた妊婦が死亡、

という痛ましい報道が世をにぎわせた。

m3.comは当然、専門家の立場から反論する。

議論はなされるべきだが、その手法に問題があつた。

独自の経路で入手したカルテの内容や、患者や遺族の個人情報まで公表。

不正確な記述をもとに、言論はさらに過熱する。

結局、奈良県警による捜査がはいり、複数の医師が遺族に謝罪した。

 

 

 

かれらは、一般に公開される掲示板「2ちゃんねる」も利用する。

他者の尊厳をふみにじる文言をかきなぐるが、

まあ、2ちゃんねるではめずらしいことではない。

おもしろいのは、「医師が寄ってたかってWikipediaをいじくり回すスレ」

このスレッドで仲間をあつめ、ウィキペディアの記事を改変。

たとえば、「医療崩壊」のページ(現在はすこしマイルドになつている)。

 

産科医療そのものが日本の各地で消滅し、

結果的に「産科医療ミスによる被害者」がいなくなりつつある。

(一方で助産院による昭和初期かと思える

低レベルな出産が奨励されているのはさておき)

これらは「市民運動」による「医療崩壊」の成果であるが、

「被害者」もいなくなり初期の市民運動の目的を達したので

喜ぶべきことと言えるかもしれない。

 

医療崩壊は市民団体の活動が原因だ、という主張だ。

結構な御高説だが、百科事典にしるすべきことではない。

 

 

 

一連のながれは、医師のブログに波及する。

たとえば、「神戸のしがない開業医」による『新小児科医のつぶやき』

大淀病院事件についての「マスコミ許すまじ」というエントリでは、

「非常に信用の置ける人物からの情報提供で、

内容、質とも超A級」のネタを提供する。

 

1. 事件当夜から記者は取材を開始していた

2. 記者は家族に例の団体を紹介した

3. 記者と例の団体は乗り気でない家族を訴訟に引きずり込んだ

4. 乗り気でなかった原告の夫及び弁護士を

  マスコミ報道に引きずり込んだ

 

鳥集の直接取材によると、すべてデタラメらしい。

ブログからブログへ、ウソが飛び火する。

『へろへろポスドクのリハビリ日記』では、

上の箇条書きをコピーして、こう続ける。

 

自分たちに都合の良い事実を作り上げ、それをスクープとし、

さらには自分たちは表に出ず、

大淀事件の被害者を前面に押し立てて、

何の落ち度もない医師を叩き、

しまいには奈良県南部の産科を壊滅させる。

マスゴミ、恐るべし。

 

ノリノリのポスドクは、遺族を訴訟にひきずりこんだと元凶とされる、

「陣痛促進剤による被害を考える会」を一刀両断。

 

実はこの会のメインのお仕事は

「陣痛促進剤の被害にあわれた(?)方が

医師から損害賠償をふんだくるのを手伝う」

ことだったりする。

 

報道関係者を罵倒するくせに、電話一本かけて裏をとる手間をおしみ、

「マスゴミ」の表面だけ真似するのが滑稽だ。

 

 

 

お次は、m3.com最大の人気ブログである、『医畜日記・楽屋篇』

十八万以上のアクセス数をほこり、

閑古鳥がなくブログの管理人としてはうらやましい。

ただ、その評判の理由が同業者に迎合することなら、見習いたくはない。

 

少し前に、奈良の妊婦さんが、不幸にもなくなったときは、

毎日新聞を始めとする、マスゴミどもは、鬼の首か、

加藤鷹のちんこを取ったかのような大騒ぎをこいて、

大淀町立病院の担当医の先生を虐めて歓びました。

 

ふむふむ、こういう文体にすれば、ウチも人気がでるかな。

舛添要一を「正真正銘のバカ」、「ハゲ大臣」とよび、

医療事故被害者の遺族の実名をあげては、「あほは、死ね!」とののしる。

万事快調な管理人「akagama」だが、「マスゴミ」の代表格である鳥集から、

取材をもうしこまれたのは意外だつたようだ。

「時間がない」と理由をつけて、会見を拒否する。

その月だけで、ブログを三十三回更新するヒマはあつたようだが。

腐敗したマスゴミに、持説をひろめるよい機会なのに。

 

 

 

かれらの主張を、簡潔にまとめることができる。

「シロウトは、医療に口をだすな」。

一面の真理ではある。

専門職が専門分野にくわしくなかつたら、おしまいだ。

ただ、それをいうなら、医師が言論にかかわるのも慎むべきでは?

白衣をきたシロウト記者は、直接取材など一切おこなわず、

憶測に憶測をかさね、さらに事態を悪化させる。

いうまでもなく、報道機関や裁判所は、

医療機関と同様、われわれの社会に必要な道具だ。

それによつてはじめてわかる真実もおほい。

すくなくとも、子をうしなつた母に「死ね」ということはない。

不特定多数が閲覧するウェブ上に、被害者の診療情報をながし、

さらには事実無根のウソや、誹謗中傷までかきつらねる。

それでも大物医師は、暴徒と化した末端医師の肩をもつ。

かれらは、荒廃した医療現場でくるしむ被害者であり、

その精神的重圧がいわせた言葉は、大目にみなくては!

もはや医療界は、秘密結社の様相を呈す。

 

 

 

「医療崩壊」という合言葉をとなえれば、なにをいつても許される。

そう信ずる人間と、建設的な議論はなりたたない。

でもだれかが、この暴れ馬をとめなくてはならない。

言葉というのは、ときに便利な道具であり、

今回の事例では、一部の人間の医師としての不適正を歴然としめす。

免許を剥奪すべきだ。

ただ、この特異な職業集団に、自浄作用がはたらく見込みはない。

公的機関が介入するしか、事態を収拾するすべはなかろう。

不幸なことに、内戦はもう始まつてしまつた。





ネットで暴走する医師たちネットで暴走する医師たち
(2008/12/16)
鳥集徹

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