コーエン/デロング『アメリカ経済政策入門』

著者:スティーヴン・S・コーエン J・ブラッドフォード・デロング

訳者:上原裕美子

発行:みすず書房 2016年

 

 

 

おもにアメリカにおいて、どんな経済政策が成功してきたかまとめている。

右や左のイデオロギーに関係なく、現場における生産性向上だけを目的とし、

幾度も政策を再設計しつづけることによって、経済成長がもたらされた。

 

 

アメリカ経済は最初からそうだった。

設計者の名はアレグザンダー・ハミルトン。

 

アレグザンダー・ハミルトンは、アメリカ合衆国の経済を、

もっとも大胆、もっとも独創的、

そしてもっとも重大かつ意図的に作り変えたアーキテクトである。

 

誰がなんと言おうと、ジェファーソン的理想主義がこの国で主流だったことはない。

 

 

首尾一貫性が本書の美点。

たとえば20世紀なら、ニューディール政策はケインズ主義でないのを確認したり、

軍人出身で右寄りのイメージがあるアイゼンハワーについても、

ニューディール期以上に「大きな政府」だったと指摘する。

記述に背骨がとおっている。

iPhoneを構成する技術のほとんどは、政府が開発に関与したものらしいが、

「がんばる息子をやさしく見守るお父さん」のイメージで、アメリカ政府が語られる。

 

 

そしてドイツや日本はハミルトンに学んだ。

実際に彼の著書が、工業化を達成するための理論として重要な役割を果たした。

1960年において日本車の性能は、外国ブランドとくらべて痛ましいほど劣っていたが、

輸入車が日本の道路を走ることはまったくなかった。

保護貿易のおかげである。

「三菱や住友にとってよいことは、日本にとってもよいことだ」とゆう信念のもと、

高級官僚たちは産業を育て、見返りに天下り先を提供された。

この癒着のせいで、現在の官僚はつぎに育てるべき産業を見極められないが。

 

 

アメリカ経済政策における最新の設計図は「金融の成長」。

惨憺たる失敗におわった。

それ自体たいした富を生み出さず、派生的な経済活動にもつながらない。

商用飛行機・半導体・コンピュータなどがもたらした高価値産業と比較にならない。

過去30年に金融業界で生じたイノベーションはATMくらいのもの。

ウォールストリートにとってよいことは、メインストリートにとってよいことではなかった。

 

 

わかりやすいシンプルなストーリーのあとに皮肉なエンディングをむかえる、

あらゆる人に勧めたい良書だ。





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苑田 謙

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