あまりにハリウッド的な ― 『フロスト×ニクソン』

(これは舞台劇の写真です。)

 

フロスト×ニクソン

Frost/Nixon

 

出演:フランク・ランジェラ マイケル・シーン マシュー・マクファディン

監督:ロン・ハワード

制作:アメリカ・イギリス 二〇〇八年

[新宿武蔵野館で鑑賞]

 

 

 

アメリカで年末に大量発生する、賞ねらいの映画だ。

訴追をまぬがれた元大統領を、対話の場にひきずりだし、

国民への謝罪のことばをひきだす。

どうにも地味な題材だが、それで作品としてなりたつのか確かめるべく、

新宿武蔵野館にむかつた。

そんな物好きは少数派とおもつたら、初回なのに空席はほとんどない。

みなさん、ニクソンやアメリカ政治に興味があるのですかね?

ボクは、まつたくありません。

自分の生活に関係ないし。

勉強熱心な人は沢山いるのだなあ。

とぼしい知識で想像すると、例のウォーターゲート事件は、

偉大な「革命」の神話なのではないか。

あたえられた権限から逸脱した為政者を、選挙以外の手段で失脚させる。

ニクソンはいわば、マリー・アントワネットの役。

 

 

 

フランク・ランジェラは、権力の毒が骨の髄までまわつた怪物を演じきる。

ひとつの質問に対し二十三分の長口舌をふるい、つけこむ隙をあたえない。

会話を記録したテープを、いつどこでどう処理したかとか、

むつかしいセリフを覚えただけでも感心する。

ニクソンはオバマ同様、弁護士あがりで口が達者。

ポーカーの名手でもあり、頭の回転がはやい。

その場を支配しようとする威圧感が、ものすごい。

ランジェラは、ニクソンに顔がまるで似ていないけれど、

そんなことはすこしも気にならない百二十二分だ。

インタビュワーのフロストは、初顔あわせの前に飛行機で女をひつかけ、

ニクソンのところへ連れてゆく。

バカな女たらしとおもわせ、油断をさそつたのだろう。

それをニクソンに逆手にとられ、撮影開始数秒前に、

「きのうはあの女とやつたのか?」などと、ゆさぶられる。

そういう頭脳戦がたのしい。

 

 

 

勝負の分かれ目は、最後の撮影の前日、

すこし酔つたニクソンが、フロストがいるホテルに直接電話をしたこと。

翌日にフロストは電話での話題にふれるが、ニクソンはおもいだせない。

みづからの最大の武器である「頭脳」を、信じられなくなる。

どんな怪物も、時のながれには勝てない、という結論だ。

ハワード監督は、『リア王』のような権力者の孤独をえがいた。

というか、どうもハリウッドの連中は、ニクソンが好きみたい。

ロサンゼルス近郊の中流の家庭にうまれるが、

東部の上流社会にくいこもうと奮闘し、大統領の地位にのぼりつめる。

結局、石をもつて追われるはめになるが。

その不遇の人生が、ガキ相手にアメコミ映画でどれだけ稼いでも、

イマイチ尊敬されない映画屋の心境にかさなるのでは。

残念ながら本作は、オスカーはわけのわからないインド映画にうばわれ、

興行的にも大コケしたようだ。

ただ、ハリウッド映画のいびつな横顔がかいまみえて、

捨てがたい複雑なあじわいがある。


関連記事

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
02 | 2020/03 | 04
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイヴ
03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03