黙示録の四騎士 ― クルーグマン『世界大不況からの脱出』

 

世界大不況からの脱出 なぜ恐慌型経済は広がったのか

The return of depression economics and the crisis of 2008

 

著者:ポール・クルーグマン (Paul Krugman)

訳者:三上義一

発行:早川書房 平成二十一年

(原書初版:一九九九年 第二版:二〇〇九年)

 

 

 

第二次世界大戦と、ケインズ理論のおかげで、

資本主義は一九三〇年代の恐慌から立ちなおつた。

政府がマクロ経済に介入すれば、自由市場を安定させられる、という確信。

われわれは大恐慌をふせぐ術を身につけた。

資本主義は、ふたたび信用にあたいする制度となる。

その四人(一法人をふくむ)が、地上に混沌をもたらすまでは。

 

 

 

「革命家」として、小平があらわれる。

一九七八年。

ベトナムで共産党が勝利してから、わずか三年。

歴史は進歩すると、信じられたり、おそれられた時代。

十億人が、しづかにマルクス主義をすてた。

アジアの資本主義の発展は、ソビエトの言い分をうちくだく。

破砕された、社会主義の夢。

それは一世紀半にわたり、市場の見えざる手をきらう者たちの、

知的な拠りどころとなつてきた。

実業家、愛国主義的な政治家、労働組合。

あらゆる立場の人間が、社会主義の理想を利用した。

しかし今日では、自由市場の不愉快な側面、

つまり不平等、失業、不正は、社会に存在して当然とみなされ、

好かれはしなくとも、容認されている。

第三世界にあたえられる選択肢は、ただひとつに減る。

グローバル資本主義に、可能なかぎり一体化せよ。

 

 

 

「兵士」として、インテル社が。

一九七一年、世界初の商用マイクロプロセッサ「Intel 4004」を出荷。

この新技術を採用したファクシミリ、ビデオゲーム、PCが、

一般社会に浸透してゆく。

九十年代にはいると、情報産業は経済のありさまを劇的にかえる。

労働者の生産量と、職場の風景は急変し、

あたらしい産業は、資本主義への情熱までよびさました。

英雄的な起業家があらわれ、革新的な製品をつくり、

その正当な報酬として、莫大な財産をえる。

ビジネスで成功することは、カッコワルくない。

経済はおもしろくなり、危険になつた。

増大する国際資本移動が、九十年代の壊滅的な金融危機と、

二〇〇八年のグローバル金融危機をひきおこす。

現代の取りつけ騒ぎは、扉をとざす銀行に殺到した群衆ではなく、

血まよつたマウスのクリックによつてもたらされる。

 

 

 

三人目は、「哲学者」のジョージ・ソロス。

投機家にして、ポパーの影響をうけた哲学徒だが、

その著書をよんだ方は御承知のとおり、あわれなほど文才がない。

それでもかれは、哲学的な発言でも尊敬をあつめたい。

一九九二年、すでに億万長者だつたソロスは、

単に金儲けではなく、自身の宣伝にもなる機会をみいだす。

ポンド危機のことだ。

「相場はかならず間違う」という持論にしたがい、

ヨーロッパ通貨統合に二の足をふむ、ポンドに空売りをしかける。

哲学者とは、詐欺師の同義語でもある。

危機で儲けるのではなく、危機そのものをつくりだす。

ヘッジファンドの親玉たちは、ゴルフ場や高級ワインの席などであつまるとき、

慎重かつ抽象的な表現でほのめかして共謀し、

法と税金の網をかいくぐりながら、各国の通貨を下落させた。

 

 

 

最後に、「道化師」アラン・グリーンスパン。

金融の神様、マエストロ、世界をすくつた男。

かつての圧倒的な名声は、よい経済ニュースがおほい時代に、

FRB議長をつとめたことによる。

とはいえインフレを封じ、のちの好景気の御膳だてをしたのは、

前任者のポール・ボルカーだ。

一方、いまグリーンスパンが着せられた汚名は、当人の失政に起因する。

九十年代の株式バブル崩壊による景気後退局面を、

マエストロは、利下げでくいとめたと称賛される。

実際は「株式バブル」が、「住宅バブル」に入れかわつただけなのに。

「パーティが盛りあがつたら、酒を持ちさる」のが、中央銀行のしごと。

損な役まわりだ。

しかしグリーンスパンは、パーティを止めようとせず、

子どもたちを家におくる運転手の役をつとめた。

 

 

 

いま世界をおほふ不況が、このまま大恐慌に進行するのか、

長びいて深刻化するなかで、あらたなイデオロギーがうまれるのか、

それとも、ケインズの名のもとに資本主義が信頼をとりもどすのか。

三つめの選択肢が、もつとも現実的であることは明白だが、

なぜか奇妙な悪寒が、脊髄をはしりぬける。

人の世はかくも、むつかしい。

 

 

 

世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか
(2009/03/19)
ポール・クルーグマンPaul Krugman

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例によつて、著者の主張や本の構成にこだわらず、

勝手な解釈にもとづいて記事をかいた。

書評というより、気ままな随筆としてたのしんでもらえれば。

 

 

ニューディール政策と、ケインズ的経済観の正当性を高らかにうたいあげた、

『格差はつくられた(The Conscience of a Liberal)』は、

本書以上の価値をもつ書物だろう。

以下の拙文は、まだ文体が不安定なころのものでつまらないが、

単なる要約としては、お役にたてるかもしれない。

 

対岸の国事 ― ポール・クルーグマン『格差はつくられた』


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