白鳥の歌

下の動画は、昨年八月になくなつた赤塚不二夫の告別式で、

タモリが弔辞をのべる様子をおさめる。

「私も、あなたの数多くの作品の一つです」と、

恩師をしのぶ切実なことばが、評判になつた。

 

 

漫画家を「師匠」とするのが、

突然変異的な藝人であるタモリの立ち位置をしめす。

また、弔辞にしては理屈がおほく、自己主張がつよい。

哲学的ともいえる。

いわく、「あなたにとつて、死も一つのギャグなのかもしれません」。

意外としられていないとおもうが、

かれは早稲田大学第二文学部西洋哲学専修に入学しており、

名目上においても、哲学徒だつた時期がある。

 

あなたの考えは、すべての出来事、存在をあるがままに、

前むきに肯定し、受けいれることです。

それによつて人間は重くるしい陰の世界から解放され、

かろやかになり、また時間は前後関係を断ちはなたれて、

その時その場が異様にあかるく感じられます。

この考えをあなたは見事に一言でいひあらわしています。

すなわち、「これでいいのだ」と。

 

堅密な論理展開にみちびかれる、あざやかな結論。

かれの藝風の核が、ここにある。

動画をみればわかるが、手もとの紙にはなにもかかれていない。

この弔辞自体が「勧進帳」のパロディだつた、というオチがつく。

 

 

 

さらに一年さかのぼつて今度は、「横山ノックを天国へ送る会」での、

上岡龍太郎による献杯の挨拶。

死後一月たつていることもあり、上と比べるとくだけた調子だ。

ところは勿論大阪の、リーガロイヤルホテル。

 

 

上岡は七年まえに引退したので、ここでは相方時代の「横山パンチ」をなのる。

隠居の身とおもえぬほど若々しく、立て板に水の口調はかわらない。

「ノックさん、あなたはいま、西の空を真つ赤にそめて、

水平線のむこうに沈んでゆこうとしています」という詩的ないひまわし。

そこから故人にまつわる日付、車種、地名、肩書きなどを列挙し、

上岡流の名調子にひきこむ。

知性をひけらかしながらも、中盤からは語調がみだれ、

哀切な涙声でしめるのが、上方の話藝ならではだろうか。

感服したのは、献杯の音頭をとるときの物腰。

ホテルの人間と、グラスのうけわたしをする間が完璧なのだ。

挨拶するにあたり、どれだけ準備をしたのかしらないが、

ほれぼれするほど水際だつた藝だ。

 

 

 

上岡龍太郎は、「ボクの藝は二十一世紀には通用しない」と

いひのこして引退したが、多分その判断はただしかつた。

マイク一本で、人のこころをゆさぶる技巧をもつていても、

それを披露する場所は日ごとにへつているから。

のこる唯一の発表の場が葬儀場、というのはあまりに皮肉だ。

「YouTube」などをみるかぎり、上のふたつの動画に対する、

わかい世代からの反響は決してちいさくない。

それでも、演藝者ふたりの沈鬱な口ぶりは、

ほろびゆく伝統をせおつた人間の、白鳥の歌にもきこえる。

 






タモリの弔辞の全文は、以下を参照のこと。

SANSPO.COM「タモリ弔辞『私もあなたの作品の一つです』」


関連記事

テーマ : 芸能ネタ
ジャンル : アイドル・芸能

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
01 | 2020/02 | 03
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
月別アーカイヴ
02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03