『サイバー剣士 暁ジュン』第10章 「突破」

登場人物・あらすじ


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 三月四日、午前十一時。

 普段から賑やかではない丸の内二丁目は、道路が通行止めとなり静かだ。約二百名の機動隊を中心とする警察官が駆り出され、三菱東京UFJ銀行本店を包囲している。

 チャリオットが人質をとってビルを占拠した。最終段階となる「タワー作戦」として。

 ガード下の影から、セーラー服の少女があらわれる。スマートフォンを操作するのに夢中で、街の異変に気づいてない。二名の警官に呼び止められる。

「君、ここは危険だ。帰りなさい」

 スマートフォンと思われた物体は、警官の顔面に激突し、ガラスの破片となる。暁ジュンがネットカフェからくすねた灰皿だった。

 ジュンは手裏剣の刃を、もうひとりの警官の頸動脈に当てて囁く。

「何事もなかった様に、こいつを線路のむこうまで連れて介抱しろ。変な動きをしたら、手裏剣がお前の首に刺さるからな」

 ジュンは早足でビルをめざす。情報によれば中にカズサがいる。

 彼女はミニスカポリスとゆうトロイの木馬を虚実隊へ送りこみ、カズサとボスの間で交わされたメールを傍受した。本来技術者であるカズサが、ボスとともに銀行への襲撃に加わると志願し、反対を強引に押し切る内容だった。

 理由はひとつしか考えられない。父の復讐だ。

 鏑木治三郎が自殺した現場で約束したとおり、ジュンは助太刀にむかう。

 二十四階建てのビルを見上げる。唾を飲みこみ、乾いた喉を湿らせる。脇の汗がとまらない。




 ふたりのテロリストに拘束されたジュンは、両腕をつかまれ、天井の高いロビーへ引き摺られる。

「きゃっ」ジュンが叫ぶ。「おねがい、乱暴しないで」

 男が言う。「さっさと歩け」

「私は関係ないんです。警察の人にこっちへ逃げろと言われただけで」

 十五歳のジュンが震え声で上目遣いをすると、それなりの説得力がある。ギターケースに刀があるのは気づかれていない。チャリオットの各細胞が情報を共有できてない證拠だ。

 制服の女子行員や一般客ら約五十名が、壁際で座らされている。チャリオットは視認できる限りで十一名。全員M4カービンを装備する。

 三脚に載せたビデオカメラの前で、目出し帽の男がM4を振り上げながら演説する。UFJを狙ったのは、四十兆円ともっとも多くの日本国債を保有する銀行だからだ。日本は企業に牛耳られた国家だ。我々はUFJをはじめとするすべての金融機関に、国債の放棄を要求する。

 操り人形だ、とジュンは推察した。どこかにシナリオライターがいる。感覚を研ぎ澄ませ。

 ジュンは両手に仕込んだ手裏剣を、ふたりのテロリストの腿に骨まで達するほど突き刺す。ふたりは悲鳴をあげて崩れ落ちる。ジュンは刀を抜き、左手のパワーグローブで隠形印と内獅子印をむすぶ。

 全館の照明が消え、スプリンクラーが作動した。

 暗闇と降水のなか人質が逃げ出し、テロリストが発砲する。激声が交錯。ジュンは窓口のカウンターを飛び越えてやりすごす。

 しかし、フルオートの銃声と同時に背中に強い衝撃を受け、ジュンは転倒する。

 撃たれた。

 ケブラー繊維のギターケースは薄い鉄板も入っており、4・6×30ミリ弾の貫通をかろうじて防いだ。ジュンは痺れる手足で這い、机の陰に隠れる。

 無停電電源装置により照明が恢復。MP7を構え、刀も帯びたチーフの巨体が浮かび上がる。パーマをかけた髪が、濡れて顔に貼りついている。ジュンにつけられた傷跡が頬に残る。

「待ちわびたぜ」チーフが言う。「お前を犯すのを。いろんな女をレイプしてきたが、中学生ははじめてだ」

 窓口の奥の金庫から、若い女の嗚咽が聞こえる。銀行の制服を剥ぎ取られ、蹂躙された様だ。

 ジュンは深く息を吸う。熱くなるな。こいつはクズだがバカじゃない。あたしを挑発しようと計算している。

 ジュンが尋ねる。「カズくんはどこ」

「あんなモヤシじゃなく、俺が相手してやるよ」

 罠か。でも、どこからが。

 ジュンは唇をぎゅっと結び、疑心暗鬼を振り払う。立ち上がり、あえて刀を納める。逆にチーフは抜刀。

 チーフが言う。「ザンビョウとか言う技をつかう気か」

「てめえにゃ勿体ないけどな」

「感謝しろ。俺の子供を産ませてやる」

「てめえを斬り刻んでお堀へ投げ込んでやんよ。脂が乗ってて良い餌になりそうだな」

 チーフはあばた面を歪めて笑う。ふたりは似た者同士だった。つねに攻撃性を持て余して生きていた。ある意味、共感しあえる関係だった。

 亡霊の様にゆらゆらと、ジュンが歩み寄る。




 ジュンはビルの裏側の車輛出入口にいた。ヘッドセットで赤兎に言う。

「外の様子を見せて」

「了解。こっちは約百名の警官が展開している」

 アイフォンの画面では、ヘルメットや盾を備えた機動隊が壁をつくり逃走経路を塞ぐ。虚実隊とおぼしき私服警官も数名いる。

「装備は?」

「平均的なものだ。ただし虚実隊はFNMAGやLAW80をもっている」

「おいおい。汎用機関銃とロケットランチャーって、警察の装備じゃないだろ」

「君が車で逃げるのを想定しているらしい」

「小癪なやつらめ」

 ジュンはビルの谷間に姿を見せる。強風にスカートが翻り、黒髪が逆立つ。上空にテレビ局のヘリコプターが飛んでいる。機動隊はメガホンで投降を呼びかけるが、反響がはげしく聞き取れない。

 ジュンはゆっくりと抜刀。こびりついたチーフの血の臭いがただよう。

 赤兎が尋ねる。「まさか交戦する気か」

「サポートよろしく」

「投降を推奨する。君が死ぬのを見たくない」

「あんがと。でも乙女が恋に命を懸けなかったら、いつ懸けるんだよ」

 ジュンは伝孫六を天へ突き上げて叫ぶ。

「キェエエーッ!」

 機動隊員は狼狽する。誰ひとり、セーラー服の少女が白刃を振りかざして突進すると予想しなかった。

 敵後背に潜んでいた赤兎が、胴部の遠心力銃でゴム弾を連射する。音もなく警官を薙ぎ倒す。

 雪風流【野分】。

 ジュンは十メートルを全力で駆け抜け、腰を落として斬る。透明な樹脂製の盾が両断された。目を見開いたまま硬直する機動隊員を蹴り倒す。

 パワーグローブで智拳印をむすぶ。丸の内周辺の信号がすべて消える。

 脱兎のごとく有楽町方面へ逃げたジュンを、警官たちはただ唖然として見送った。




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苑田 健

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