山うた『兎が二匹』

 

 

兎が二匹

 

作者:山うた

掲載誌:『月刊コミック@バンチ』(新潮社)2015年-

単行本:バンチコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

ヒロインの名は「稲葉すず」。

外見は20代女性だが、年齢は398歳。

不老不死である。

自力では死ねないため、国家権力によって殺してもらおうと、

テロの犯人だと嘘の名乗りをあげるが、死刑は失敗。

 

 

 

 

出所して、弟か息子の様に可愛がっていた「サク」をたづねる。

彼は、すずに見捨てられたのを嘆いて自殺していた。

 

これが第1話。

奇妙奇天烈なストーリーだが、山場となる喫茶店の外観を、

下北沢の美容院ソレイユから借りるなどして、リアリティを確保。

 

 

 

 

2話はサクとの出会いが語られる。

育児放棄され路頭に迷っているのを保護したら、

父親が預金通帳をもってやってきた。

このカネで息子を引き取ってくれと。

 

愛情が摩滅した、不毛な世界観だ。

 

 

 

 

スズは骨董屋の二階に部屋を借り、修復の仕事で生計を立てる。

398歳の人間には向いてる職業だ。

 

作者が武蔵野美術大学卒業後、ウェブデザインの仕事の傍ら、

個人サイトなどで発表してきた短篇のひとつが、この連載へ発展した。

アーティスティックかつ地に足のついた作風は、自身のキャリアの反映だろう。

 

 

 

 

1巻の白眉は4話。

祭りの日、窓から神輿をかつぐ掛け声がきこえる。

400年で関わりあった人々の記憶がうかぶ。

 

 

 

 

悲しみと孤独に耐えられず、すずは白刃を我が身へ突き立てる。

死ねない自分を罰するかの様に。

 

夏祭りにまつわる「死の臭い」を具体化した最高の例だろう。

同じく不老不死をテーマとする沙村広明(この人は多摩美)『無限の住人』で、

おそらく表現したくて出来なかった世界がここにある。

 

 

 

 

サクはカープ女子であるすずを連れて、新幹線で広島へ。

駅を出た途端、原爆で破壊された街がフラッシュバックし、すずは嘔吐する。

 

すずが広島辯を話す理由は、フィクションにしか存在しない「老人語」を避けつつ、

「標準語」以外を話させるためらしいが、来歴がストーリーに組み込まれてもいる。

絞首台のロープみたいに読者を翻弄する、強烈な作品だ。






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苑田 健

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